第2話 リフォーム工事への疑念
文字数 1,397文字
「とにかく細かい話はまた落ち着いたところでするから、明佳 に連絡を頼むよ。お前は急な話というけれど、こっちは一年以上前から検討してきたんだ」
駿 との通話が切れた直後、修仁 の背中から首筋にかけて熱を帯びた痺れのようなものがせり上がってきた。
唐突すぎて、何をどうすればいいのかが浮かんでこない。
私物を整理しろと言われても、実家に何が残されているのかも理解できていなかった。
必要なものは持って帰っていいという言い方をしていたが、まさか自分に関係のあるものを全て実家から引き揚げろということなのだろうか。
一方的な兄の説明が不愉快だった。
頭の整理が着かないまま、修仁は妹の明佳に「駿兄 から実家リフォーム予定、私物を整理しろとの連絡あり、要返事」とLINEでメッセージを送信した。
明佳から「意味不明 (w)」という返信メッセージが届いたのは、その夜のことだった。
修仁はそのメッセージを見て、妹はさぞかし混乱しているんだろうなと思いつつ、明佳に電話をかけた。
「いきなり何を言っているのかしらね。家をリフォームするなんて話は初めて聞いたわ。それに私は仙台に住んでいるのよ。仕事だって急に休めないわ」
明佳は早口でまくし立てた。
「僕に文句を言われても困るよ。駿兄から言われたことを伝達しているだけなんだから」
「あの家のどの部分をリフォームするの? 駿兄にはマンションがあるでしょう。美登里 さんがOKしたの?」
「詳しい話は本人に聞けよ。それにお前は美登里さんとは仲が良いだろう」
「良かったのは過去の話。あれから美登里さんとも気まずくなってしまったわ」
「そうなのか」考えてみれば、修仁自身も美登里とはあれ以来話をしていない。
「それにしても、急に私物の整理をしろだなんて勝手ねえ。修仁兄さんも初耳なの?」
「そうだよ」
明佳は仙台で会社勤めをしている。
数年前に東京本社からの転勤が決まったときには「会社を辞める」と息巻いていたものだが、今は東北の暮らしにすっかり馴染んだようだ。
「修仁兄さん、まず駿兄によく状況を聞いてよ。来月までになんて私には無理だから」
「明佳が自分で駿兄に話を聞けばいいじゃないか。お前、駿兄の携帯を着信拒否しているのか」
「そんな設定にしたことを忘れていたわ」明佳は笑った。
「とにかく、修仁兄さんは家が近いんだから、会ってじっくり話を聞くくらいできるでしょう」
「僕だって藤枝市に住んでいるんだから、近いわけじゃない」
「この話は私と修仁兄さんが別々に対応すべきじゃないと思うのよ。修仁兄さんが窓口になって話をしてほしい」
通話を終えた修仁がスマホをテーブルの上に置くと、隣室で洗濯物を畳んでいた妻の聡子 がリビングに入ってきた。
「どうするの。三人で話し合うことにしたの?」
「明佳は駿兄とは直接話をしたくないみたいだよ」
「それで貴方はいつ山梨に行くの。リフォーム工事の工期のこととか、駿さんからいろいろと聞いてこないと、こっちのスケジュールを組めないもんね」
「そうなんだけどね――」
聡子の口調はあくまで冷静だが、それが修仁には少し不満だった。今のところは自分が一緒に対応するつもりはないらしい。
「新型コロナウイルスも落ち着いたみたいだから、今だったら山梨に行ってもいいんだよ。私と陸斗はお留守番していますけど、どうせならGOTOトラベルでも使ってみれば」
「旅行じゃないんだよ」修仁は笑った。
唐突すぎて、何をどうすればいいのかが浮かんでこない。
私物を整理しろと言われても、実家に何が残されているのかも理解できていなかった。
必要なものは持って帰っていいという言い方をしていたが、まさか自分に関係のあるものを全て実家から引き揚げろということなのだろうか。
一方的な兄の説明が不愉快だった。
頭の整理が着かないまま、修仁は妹の明佳に「
明佳から「
修仁はそのメッセージを見て、妹はさぞかし混乱しているんだろうなと思いつつ、明佳に電話をかけた。
「いきなり何を言っているのかしらね。家をリフォームするなんて話は初めて聞いたわ。それに私は仙台に住んでいるのよ。仕事だって急に休めないわ」
明佳は早口でまくし立てた。
「僕に文句を言われても困るよ。駿兄から言われたことを伝達しているだけなんだから」
「あの家のどの部分をリフォームするの? 駿兄にはマンションがあるでしょう。
「詳しい話は本人に聞けよ。それにお前は美登里さんとは仲が良いだろう」
「良かったのは過去の話。あれから美登里さんとも気まずくなってしまったわ」
「そうなのか」考えてみれば、修仁自身も美登里とはあれ以来話をしていない。
「それにしても、急に私物の整理をしろだなんて勝手ねえ。修仁兄さんも初耳なの?」
「そうだよ」
明佳は仙台で会社勤めをしている。
数年前に東京本社からの転勤が決まったときには「会社を辞める」と息巻いていたものだが、今は東北の暮らしにすっかり馴染んだようだ。
「修仁兄さん、まず駿兄によく状況を聞いてよ。来月までになんて私には無理だから」
「明佳が自分で駿兄に話を聞けばいいじゃないか。お前、駿兄の携帯を着信拒否しているのか」
「そんな設定にしたことを忘れていたわ」明佳は笑った。
「とにかく、修仁兄さんは家が近いんだから、会ってじっくり話を聞くくらいできるでしょう」
「僕だって藤枝市に住んでいるんだから、近いわけじゃない」
「この話は私と修仁兄さんが別々に対応すべきじゃないと思うのよ。修仁兄さんが窓口になって話をしてほしい」
通話を終えた修仁がスマホをテーブルの上に置くと、隣室で洗濯物を畳んでいた妻の
「どうするの。三人で話し合うことにしたの?」
「明佳は駿兄とは直接話をしたくないみたいだよ」
「それで貴方はいつ山梨に行くの。リフォーム工事の工期のこととか、駿さんからいろいろと聞いてこないと、こっちのスケジュールを組めないもんね」
「そうなんだけどね――」
聡子の口調はあくまで冷静だが、それが修仁には少し不満だった。今のところは自分が一緒に対応するつもりはないらしい。
「新型コロナウイルスも落ち着いたみたいだから、今だったら山梨に行ってもいいんだよ。私と陸斗はお留守番していますけど、どうせならGOTOトラベルでも使ってみれば」
「旅行じゃないんだよ」修仁は笑った。