さらば愛しのアルトワークス

文字数 1,588文字

 私は3年ほど、スズキのアルトワークスという軽自動車に乗っていた。1998年式のHA11Sというモデルで、丸目のワークスと言えば車マニアには通じると思う。かわいくてかっこよくてスーパーラブリーな車なのだが、同じデザインで4WD、なおかつより高性能なK6AのDOHCターボを積んだHA21Sと比べると、ターボこそ積んでいるもののFFでSOHCでF6A仕様のHA11Sはハズレ扱いされることが多く、正直不人気車種と言わざるを得なかった。しかし、高性能なHA21Sは走り屋に乗り潰されたり競技車両として酷使されてきた車両が多く、状態の良い車両はむしろ不人気なHA11Sの方が多い、という皮肉な現状がある。
 私は運良く地元の小さな中古車屋さんでこのかわいくてかっこよくてスーパーラブリーなHA11Sの好状態のMT車両を発見し、HA21Sと比較される可哀想な現状もむしろ自分の境遇とシンクロするところがあり、「この車はおれが乗らなければ!彼女を幸せにするのはおれだ!」と、ある種一目惚れ的な動機で購入した。10万円だった。今ネットで調べたら同じ車の走行距離10万kmオーバーの車両が60万円で売っていた。破格すぎて購入した地元の中古車屋さんが心配になる。このアルトワークスの前に乗っていたFFのオンボロEKワゴンも下取り8万で買ってくれたし。ちば自動車大丈夫かな。
 車検もある程度残っていたのですぐに乗り始めたのだが、一ヶ月もしないうちにマフラーに穴が空いた。純正のマフラーは年式的に生産終了していたので、柿本レーシングという社外メーカーの中古のステンレスマフラーを装着した。結構うるさくなった。すぐにインナーサイレンサー(マフラーの音を静かにする部品です)を装着したが、それでも夜中はそれなりに気を遣う車になってしまった。元々イジる気だったので全然良かったのだが。
 そのように壊れたり壊れそうになったところを直しながら乗っていたのだが、青森に住んでいるときにエンジンが限界を迎えた。整備工場に見てもらったらエンジンオイルが焼き付いてしまっており、ここ2〜3年のダメージではなく、恐らく前のオーナーのエンジンオイルの管理不足だろうとのことだった。私はオイルを頻繁に替えており、しかもワコーズという結構高いオイルを入れ、エンジンの回転数も適度に回して焼き付かないように気を遣っていたつもりだったのだが、こればかりは自分では何ともできず、エンジン換装する予算もなかったので、泣く泣く手放すことになった。
 ハズレ扱いされていた車種とは言え、最近の軽自動車に比べると圧倒的に速く、何より楽しかった。高速道路の合流車線だけで120km/hに達する加速力は、秋田の風車地獄から逃げる際に大いに役に立った(拙稿『風車が怖い』参照)。もちろん法定速度のワインディングも十分楽しかったのだが、サスペンションやエアクリーナーもスポーツ用を装着して、コンピューターのスピードリミッターも解除して、あわよくばサーキットに持っていって思いっきり走らせてみたいと思っていた矢先のお別れだったので、なかなか寂しいものがある。
 今は超高級車、ピンクゴールドのダイハツのムーヴに乗っている。私の使っている中古のMacbook Airもピンクゴールドなので、家族からはピンクが好きなのかと思われている。ムーヴは5万円で購入した。車って5万で買えるんだ、と思った。かつて乗っていた80年代のスーパーカブは8万円だった。原付より安い車…
 今でこそATでNAのムーヴに乗っているが、いずれはまた楽しい車に乗りたいと思っている。ただ、最近は中古のスポーツカーやホットハッチも値上がりが激しく、金銭的になかなか厳しいところではある。今はとりあえず、楽しかったアルトワークスの思い出に浸るのが精一杯だろう。ありがとう、アルトワークス。
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