プリキュア

文字数 1,190文字

 普段工場で働いているのだが、機械がしばしばプリキュア状態になる。
 何を言っているかわからないかもしれないが、自分でも全くわからない。
 複数の材料を機械にセットして、機械を動かすとそれらが組み合わさってひとつの部品になる。材料の補充をしたり、材料がどこかに引っかかったりしてエラーが出て止まってしまった機械を元に戻すのが私の仕事だ。
 材料のひとつに、小さな鉄の棒がある。鉄の棒はお行儀よく並んで流れていき、別の材料に一本ずつ組み込まれる。その鉄の棒が流れていくレールがあるのだが、一本ずつ流すために極めて細くできている。そのレールにしばしば鉄の棒が詰まるのだ。
 私は、そのレールに鉄の棒が詰まった状態をプリキュアと呼んでいる。再度申し上げるが、理由は自分でも一切わからない。
 あらかじめ断っておくと、私はプリキュアを観たことがなく、知識がないので好きでも嫌いでもない。私はプリキュアと一切の接点がない。しかし、レールに鉄の棒が詰まった状態を見ると、何故か頭の中に「プリキュア」の一語が浮かんでしまうのだ。
 自分でも脈略がなさすぎると思い、レールに鉄の棒が詰まった状態とプリキュアとの関連を考えてみたりもした。プリキュアの映画か何かのポスタービジュアルで、各シリーズのプリキュアたちが勢揃いしている絵面を見たことがある。その勢揃いぶりが、レールの一部に鉄の棒たちが勢揃いしている様子とダブったのか?しかしそれなら、同じくLDHが勢揃いしているHIGH&LOWシリーズや、クロスオーバー物の仮面ライダー映画を連想してもよさそうなものだ。というか、ハイローや平成ライダーは履修しているので、連想するならむしろそちらの方が自然なはずである。
 もしかすると、自分が覚えていないだけで、プリキュアに鉄の棒が詰まるシーンがあり、それをたまたま見ていたのかもしれない。鉄の棒を詰まらせる悪役。困り果てる人々。プリキュアがなんとか詰まった鉄の棒を除去し、鉄の棒がスムースに流れて、街は平和を取り戻す。ちょっと観てみたい気もするが、そんなエピソードがあったら脚本家の正気が疑われるし、もし実在したらネットミームにでもなっていると思うので、これも考えにくい。
 そんなことを考えているうちに、また機械がプリキュア状態になる。詰まった鉄の棒は、ピンセットでほにほにとほぐしてやると流れるようになる。プリキュア状態から解放され、スムースに流れる鉄の棒たちは、心なしか自由を謳歌しているようにも見え、一本一本が私に「ありがとう」「ありがとう」と言っているような気がする。
 もしかすると、これがプリキュア状態とプリキュアの関連の正体なのかもしれない。人助けをして感謝されるプリキュアと、鉄の棒助けをして感謝されている気がする私。今日も私は、鉄の棒たちの「ありがとう」の言葉をやりがいに、頑張って働きます。
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