膝が痛い

文字数 1,284文字

 膝が痛い。左膝だけなのだが、曲げた状態で体重をかけると、膝の上の方がひどく痛む。歩くだけならまだいいのだが、最近雪が溶けてから自転車で通勤するようになって、みるみる酷くなっていった。私が所持している自転車はBMXという種類のもので、変速機能がないため、恐らく最も膝に悪い自転車であり、明らかにそれが悪影響を与えていた。しかし、かっこいいので乗り続けていた。
 きっかけはおそらく数年前のスキーで、特に捻ったとか転んだとか派手はことはしていないのだが、久々のスキーで全身が筋肉痛になった記憶がある。その時から軽く痛む時はあったのだが、放っておいたら痛みだけは引いたし、病院に行くほどでもないと思っていたので、冬にちょっと痛むなあと思いながらも放置していた。
 そして自転車に乗るようになって暖かいのに痛むようになった。これではオリンピックでメダルを獲得したり、ブレイクダンスをすることは困難である。東京大学に合格することも厳しいし、人間国宝などは絶望的だ。自転車に乗ることは控え、病院に行くことにした。
 病院ではまずレントゲンを撮った。ズボンを膝上までたくし上げようとしたのだが、私の足とジーンズの太さのバランスが絶妙で、ギリギリ膝上までたくし上げることができなかった。そのため、左足だけ脱いで撮影することになった。女性の看護師は気を遣って、私に下着隠しのためのバスタオルほどの大きさの布を渡してくれた。私はバスタオルの下でジーンズから左足のみを抜き出そうとしたが、バスタオルがジーンズに引っかかって下着が露出してしまった。看護師は後ろを向いて何やら作業をしていたので、こちらを向く前に急いでバスタオルを正規の位置に戻そうと試みた。しかし、焦ってベルトのバックルがベッドの金属部分に当たり、大きな金属音を奏でたので、看護師が「大丈夫ですかっ」と振り向いてしまった。もちろん下着は露出したままである。まるで音を立てて気を引いて露出した下着を見せるかのような格好になってしまった。
 お互いに少し気まずいレントゲン撮影が終わると、少し待たされた後、診察室に通された。
「自転車で痛めたんだよね。普通の自転車?」
「いや、ちょっとスポーツタイプっていうか(BMXだとバレないように努めているが、嘘をつくのは忍びない)」
「ロードバイクとか、そういうの?」
「いえ、そんな本格的じゃないんですけど(逃げ切れそうだ)」
「スポーツバイクだと、ママチャリとかより負担少なそうだけど。変速付いてるから」
「はあ(変速が付いてないとバレないようにやり過ごそうとしている)」
「…もしかして、変速付いてないの?」
「(脳内にサイレンが鳴っている)うっ、は、はい」
「…もしかして、BMX?」
「(終わった)…はい」
「今すぐ乗るのやめろ」
 このような和やかな会話がなされた。主治医曰く、膝を使わないことが一番の治療で、電気をかけたりするのは気休め程度にしかならないという。BMXさえ乗らなければ問題はなく、BMXだけは絶対にやめろとのことだった。
 これで、BMX世界チャンピオンになることもできなくなってしまった。
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