オリンピッグ

文字数 1,734文字

 電通の偉い人が変なこと言って問題になったことは皆様ご存知かと思う。ちなみに今回はその後のゴタゴタについては触れず、彼の言動についてのみ言及するつもりだ(論旨がズレることを防ぐためであり、ご理解いただきたい)。広告代理店とかの人が社会にとって何の役に立っているのか頭の悪い私には一切理解できないのだが、どうやらソフトバンクとかBOSSのCMとかをやっているらしいと知り、妙に腑に落ちた。
 というのは、ソフトバンクのCMもBOSSのCMも、外国人が片言で喋ったり、外国人が日本の文化に違和感を覚えたり、(敢えてこの表現を使うが)外国人にミスマッチな言動を取らせる描写があり、そもそも差別意識が内包されているCMだと気付いたからである。数年前ならいざ知らず、今これらのCMが新作として発表されたらきっと批判されるだろう(されて然るべきだ)。
 おそらく電通の偉い人(名前を失念したが、彼はおそらく電通の偉い人というポジションに価値を見出していると思われるため、彼の名誉のためにこのように呼ばせていただく)は、これらの差別意識に無自覚だと思われる。謝罪(と言えるのか?)を見る限り、何が悪いのか本当には理解していなさそうである。このような人間はオリンピックに関わるべきではないと考えるが、「そんなに悪いこと?」と思っている人のために、ルッキズムとボディ・ポジティブという概念について、自分の足りない知識なりに解説してみたい。
 まず「ルッキズム」についてであるが、簡単に言うと容姿についてとやかく言うのは差別的だよね、ということ。ブスだのデブだのと悪口を言うのはもちろんアウトだが、言っている本人は褒め言葉のつもりでも「美人」「可愛い」「イケメン」なども、ルッキズム的に危うい場合も多い。例えば仕事仲間に可愛いだのイケメンだのと言うのは、本人にとっては能力よりも容姿で評価されていると感じる場合もあり、多くの場合適切ではない。
 次に「ボディ・ポジティブ」であるが、こちらに関しては日本はかなり遅れているので(ルッキズム意識も遅れているが)、聞いたことがない人もいるかもしれない。これは「自分の容姿を特徴として受け入れ、アイデンティティに昇華する」という運動で、様々な体型や人種、肌の色を含めた容姿を、それぞれの良さとして美意識を更新するべきという動きである。日本で言えばまさしく渡辺直美さんがボディ・ポジティブのアイコン的存在になっている。着せ替え人形シリーズ「バービー人形」も、最近体型や肌の色のバリエーションが増えた。バービー人形は長らく、「色白で痩せ型の女性こそが美しい」というロールモデルを提示してきたブランドであるため、このような動きがあるのは好ましい。
「オリンピッグ」は、渡辺直美さんのアイデンティティを踏みにじるものである上、容姿をネタにして面白がろうとする点でそもそもルッキズム的問題もある。かつては抑圧されている側の人々が声を上げづらい状況であったりして、このような差別意識は黙認されてきたが、昨今それが許されない状況が作られつつあることは良い流れだと思う一方、まだまだ改善されていない部分も多く、手放しで喜ぶことはできない。
「かつては許されていたことが、今は許されなくなっている」ことをもって、時代が窮屈になっているなどと仰る諸先輩方もいらっしゃるが、はっきり言って怠慢だと言わざるを得ない。時代に合わせた意識のアップデートは、確かに今までの自分の価値観を見直さなければならないという意味で痛みを伴うが、クリエイターであれば当然努めるべきことであり、それがテレビCMという多くの人の目に触れるコンテンツや、オリンピックという世界中の人が見るイベントであれば、尚更気を使う必要がある。電通の偉い人は電通で忙しいから(どのような仕事で忙しいのか一切理解できないが)、このような雑な案が出ても仕方がないと思う向きもあるだろうが、電通の偉い人などはオリンピックの仕事より、電通の偉大な仕事に集中してもらいたいものである。電通が何の役に立つのか一切知らないが、電通の偉い人はとても偉そうなので、私のような頭の悪い人間には理解できないレベルの偉大な仕事をしているはずだ。
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