第30話「最終話」:波瀾万丈の人生、我が子誕生

文字数 1,527文字

「もちろん、浮気なんてもってのほか、それから、恵子に、常に、やさしく接して下さい」
妊娠中の女性は、神経過敏だから」
「最後に、食べ過ぎに注意しなさい。七郎さんじゃなくて、恵子の事です」
「妊娠すると、食欲が出て、ついつい食べ過ぎちゃうのですが、体重が増え過ぎると、出産がキツくなります。その為にも食べ過ぎないことが大切」

「これは、私が体験済みですので、強く希望しますと書いてあった」
「なんて、素晴らしい、お母さんだろうと、七郎はうれしく思った」
「春風が吹き、端午の節句、梅雨も過ぎ、暑くなり、夏休み」
「その後、秋風が吹き出した頃、恵子のお腹は、もうぱんぱんになった」

「そして9月20日、待望の赤ちゃん誕生」
「七郎は、まさか65歳で子供を授かるとは、夢にも思わなかった」
「生まれてきた女の子をみて、複雑な感情が、頭の中を駆け巡った」
「1つは、この子を見て、孫を見てるような奇妙な感じ」

「また、現実なのか、映画を見ているのかわからない様な不思議な感覚に襲われた」
「続いて、この子のために、何ができるか?」 
「でも良い教育だけは、受けさせたい」
 勉強を教えて上げたい、自立できる様に、投資の方法を伝授して上げたい。

 たくさんの金を残してあげたい。どんどん湧き上がってくる妄想に、さいなまれるのであった。「そんな、変な空想を打ち消すように、恵子が、遅いわね」
「私が、こんなに大変な思いをして頑張ってるのに、まったくもうと、怒りだした」
「40歳、越えての出産って、大変なんだからと怒った」

「この貸しは、後で、きっちかえしてもらうからねと、息巻いた」
「こんな大変な事をさせやがって、この野郎と、軽く、七郎の頭をたたいた」
「七郎が、ご苦労さん、大変だったねとやさしく、彼女の頭をなでると、堰を切った様に、目に涙が、あふれた」

「彼女としては、今まで経験した事のない痛さ、つらさだったのだろう」
「頑張って分だけ、汗をかく様に涙で発散したと思うと、急に、いとおしくなった」
「この出来事を考えると、今まで、生きてきた事が走馬燈の様に頭の中を駆け巡った」
「生まれて、何もわからないうちから、多くの大人に、いろいろ覚えさせられた」

「そして、物心ついた6歳の時、家族全員で米国旅行に行くのを楽しみにしていた」
「しかし、インフルエンザになり高熱で、うなっていて、1人だけ日本に残された」
「帰りを楽しみに待ってたのに、家族全員が、飛行機事故で、亡くなった」
「その後、天涯孤独、1人ぼっちになり、とても悲しかった事」

しかし なぜか横浜の外人学校に入れられ友達になったティムのお父さんのリチャードとの運命的な出会い。彼は、実の子以上に可愛がってくれ、厳しく人生を生き抜くすべを教えてくれた。リチャードとロスチャイルド家の援助で、不自由ない生活ができた。更に、木下家の巨額の遺産の事。それを元手に、巨万の富を築いた。

 本当に悲しかった事は、最初の妻・サリーや、リチャードの死。巨額の富を前に、何をすべきか考えあぐねた日々。
「最後に巨万の富を与えてくれた多くの幸運に感謝」
「その幸運に恵まれなかった人々にチャンスを与える事が、自分の巨万の富を有効活用する事だと悟り、『入間の里』学生寮を私費を投じて設立した事」。

 このご褒美なのか、本当に身近にいた新しい妻との結婚。彼女の父との悲しい別れ。次に、サヨナラ満塁ホームランの様な65歳にして女の子の誕生という幸運。こう考えてみると人生悪い事の後には良い事がある。

「『禍福は糾える縄の如し』、幸運を独り占めしないで、幸運に恵まれない人に与えれば、また幸運がやってくる」。「禍福己による」と言う、ことわざの意味を七郎は、身をもって知ったのであった。【終了】
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