この世の中は、狂ってた。

文字数 1,419文字

 いっその事、学校なんて全部オンラインのリモートでもいい。この一年ほどで、やっとそう言える時代が来た。
 スマートフォンが普及してからこの十年、通話アプリやミニブログを介した仲間外しや陰口、猥褻画像の強要といったいじめ犯罪が横行して問題になっているが、その十年前から学校内での陰湿ないじめ行為や、素行不良の有無によらない犯罪行為は起こっていたし、その一昔前には学級崩壊と校内暴力が蔓延するクソの様な時代だった。
 少なくとも戦後の混乱が収束して以降の学校は、閉鎖された治外法権のクソがまかり通る場所だったのだろう。
 あぁ、思い出した、スタンフォード監獄実験だ。教師という強大な権限を持たされた人間は、生徒を抑圧する看守に成り下がり、まともな教育を忘れてしまうのかもしれない。社会が安定すればするほどに、学校は監獄実験の会場と化していったのかもしれない。

 私が中学生だった頃も大概だった、おかげさまで今でも私はヤンキー物の創作物を嫌悪しているし、まともな教師なんて一割いればいい方だと思っている。
 確かに学校はつまらない、校則は下らない、それどころか人権侵害が平然と黙認されているのが校則だ。それは認めるし、私だってパンクス精神が無いわけじゃない。だけど、授業中には黙って座って座っている、制服の規定があるなら制服を着る、他人に危害を加えない。ただそれだけの、最低限の常識と礼儀と順法精神くらいは守らなくてはならない。いくら治外法権の無法地帯といえど、フェンスを取っ払ってしまえば、学校は小さな社会であり、社会の模擬演習場なのだから、そのくらいは学ばなければならないはずだ。
 だが私が中学一年生だった頃には、それが成立していなかったし、そんな学校に嫌気が差して学校に行かないとなれば私は異常者扱いをされた。素晴らしい世界だ、まさしく現代に実在したディストピア、『リベリオン』の世界すら連想してしまう。しかもその結果として私に与えられた懲罰は、なんと心理カウンセリングである。まるで反体制派を洗脳するべく、お抱えのトチ狂った精神科医に診察を受けさせる様なものだ。まったく近未来SFの世界そのままだが、恐ろしい事にこれは過去のお話、平成半ばのお話である。

 本来、心理カウンセリングなんてものは、問題解決を必要とする人間が自発的に受ける物である。確かに医者の指示で心理面談を受ける患者も居るだろうが、まさか教師の指示でカウンセリングを受けさせられるなんてのは狂気の沙汰だ。教師としては、何か問題が有っても『わたくしに責任はございません』と、言いたいだけなのだろうが、そんな物を押し付けられるカウンセラーも堪った物ではないだろう。百万単位の学費を投じてやっとの思いで取った資格を、そんな事に活かせと言われるのだから。
 尤も、私が最初に出会ったその心理療法家は実に酷い物だったが。
 ――不良生徒は飛行によってストレスを発散しているから心理的に問題は無い。
 こうした旨の事を私の親に言い放ったのだ。なんと素晴らしい思考回路か、未だに反吐が出る。こんな人間にあの超難関の資格が認められているなんて、思い出すだけで目眩がする、資格の持つ権威の失墜だ。不良生徒こそ、非行に至るまでのプロセスに不健全な問題を抱えている様に見えるのだが。
 ……だから私は心理学の世界を知ろうと思ったのだ。こんなクソが生み出される前の、本物の心理学の世界を。

 それが盛大な失敗だった。
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