第9話 人間味

文字数 417文字

「人食い鬼を殺すんだ。」
信じられないくらいの群衆の蠢く竹下通りから二本外れた路地の駐車場で煙草を燻らせながら眼鏡は言った。
「今までの相手とは少し違って、人助け、だよ。世のため人のために働き、お金を貰おう。」
「人、食べるの?」
「ああ、快楽殺人だと思うよ。まさか本当に食べてるとは思えないけど。無差別なんだろうけどね。偉い人が怖がったから、私たちのところに転がり込んできた。」
キャスターの甘い香りが鼻を突く。僕はミルクティーを飲みながらぼんやりと、鋭角に切り取られた青空を見ていた。入道雲が出ている。もう今は夏なのだろう。
「藁をも縋る。」
「キツネ、難しい言葉覚えるようになったね。」
眼鏡は吸い終えた煙草を放り踏み潰すと、僕の頭を撫でた。
「頼んだよ。最悪、情報だけでもメールですぐに教えて欲しい。」
眼鏡は小声で、生きてるうちに残してね、と言い残して去った。
-人間が好きなのか。
人の味って美味しいんだろうかと齧った指先は、鉄さびの匂いがした。
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