第20話 瞬発的猫名づけ

文字数 1,483文字

 あかねこ。もっぷ。きなこ。みけ。どんべさん。

 これらは現在、わたくしが暮らすこの集落に住む猫たちの名である。「あかねこ」はわたくしのことである。すべて、まる蔵が勝手につけた「呼び名」である。

 この男、見かけた猫に名をつけることを趣味の一つとしているようだ。わたくしの考察によると、その名づけの基本は、「見た目のインスピレーション」によっている。
 名づけにあたり、まる蔵は熟考というものをしない。第一印象(毛の色や長短、顔つき、体格、態度など)でもって、瞬時にこなすのであった。それでいて、「なるほど」と思わせる説得力がある。実に不思議である。この男の深い「猫愛」のなせる技ということか……

 「あかねこ」はわたくしの毛色がいわゆる茶トラだからである。「もっぷ」は長毛種の洋猫の血が入っている若造だ。「きなこ」は若いおなご猫で、普通のトラ柄であるが、若干茶色が薄い。「みけ」はそのまま三毛猫である。「どんべさん」は、異色である。黒色勝ちなトラ柄で、顔も図体も大きくふてぶてしい。「どんべ」という字面も音の響きも、ぴったりである。さらに、どこか憎めぬ間抜けさがある。思わずまる蔵は「さん」を付けてしまったのであった。読者諸兄も、見ればお分かりになることだろう。ちなみに、こやつは目下、わたくしの好敵手(ライバル)である。負ける気はしないが。
 
 かつて実家暮らしの頃、幼少期からいわゆる「野良猫」と触れ合いながら生きてきたこの男。これまでの生涯において、多くの猫に触れ、名づけてきた。それは現在も進行形である。ここにわたくしが聞き知っただけの「猫名づけ」の実績を上げるとする。

 「うっしー」(白黒でしっぽのない雄)
 「ぶたねこ」(トラ柄の雄。鼻炎性の鼻詰まりでいつも「ブヒブヒ」言っていた)
 「おかめ」(白勝ちのトラ柄雌。「おかめの面」の髪型のような、黒い模様が頭部にある)
 「うみっぱなし」(トラ柄の雌。どこかから流れてきて出産し、育児放棄をした)
 「うば」(トラ柄の雌。上記の「うみっぱなし」が育児放棄した子にも乳を与えて育てた)
 「うばもどき」(トラ柄の雄。上記の「うば」の子で、「うば」にそっくりな容姿)
 「かたぶとり」(水で戻す前の「かんぴょう」のような色の短毛種の雄。身が詰まっておる)
 「かたぶとりもどき」(上記の「かたぶとり」にそっくりな容姿の雄。本家よりやや細身)
 「とらのだんな」(どっしりとして風格のある、大柄な雄のトラ。ザ・日本猫)
 「しろたび」(トラ柄の子猫。四肢とも先っぽわずかの部分が白い。猫好きにもらわれた)
 「そっくす」(灰色の子猫。前足が先っぽから三分の一ほど白い。同じくもらわれていった)
 「しろのかあさん」(純白長毛種の美しい雌。自分と同じく真っ白な子を産み育てた)
 「おやぶん」(トラ柄長毛種の雄。目が大きく、別の家では「ダイヤ」とも「らぶ」とも呼ばれた)
 「たいがーますく」(茶色がちなトラ柄雄。顔が仮面を被っているような文様の入り方)
 「まるちび」(黒色強めな短毛種灰色雄。顔もフォルムも丸っこい)
 「さんぼんあし」(白色がちのトラ柄雌。生まれつき三本足で生まれてきた)
 「きんた」(茶色がちのトラ柄雄。体も大きいが「金の玉」の大きさも目立つ)
 「おもち」(まる蔵の弟君の飼い猫。真っ白で丸顔の雄。名づけを頼まれた)
 「あずき」(同じく弟君の飼い猫。白黒でしっぽが長い雌。名づけを頼まれた)

 他にも覚えていない個体や、名づける前にいなくなった者たちも多数いるらしい。ともあれ、まる蔵は今後もこの「趣味」を続けるであろう。
 
 

 
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