第6話 円舞な男

文字数 1,148文字

C市交響楽団 定期公演の打ち上げ3次会はラーメン店
T氏「ウィンナーワルツのリズムはなぁ。単なる3拍子じゃないんだよ!」
アサミ「へ~」
T氏の目がすわってきた。
T氏「ぜんぜん わかってない。マラ5の3楽章のラッパのリズム 頼むぜよ!」
アサミ「はぁ。。。」
T氏は目前のどんぶりを箸で指した。
T氏「このナルトを見なさい!  この渦巻を見て、 ナ ル ト とカウントするんだ!」
アサミ「ナ ル ト!  ナ ル ト!  ナ ル ト!   ナ ル ト! ああ目が回る」
アサミは、よろけT氏に抱きつく形になった。
T氏「およよ」とご満悦。
ミサ「まあまあ ところで、次回のファミリーコンサートの後半はウインナーワルツ集よね」
アサミ「あの女流指揮者は、帰国子女だって。オーストリアからの! ねえ Tさん 聞いてんの?」
T氏は、ラーメンのどんぶりを押し抱いて眠っている。眼鏡はスープに液没。
「このオヤジ!」
アサミとミサのユニゾンがラーメン店に響いた。

次の演奏会の舞台

1STヴァイオリン 4プル表席のT氏は、恍惚としていた。
指揮台上は、男装の麗人、宝塚男役スターのような指揮者が、そのしなやか指揮棒の動きで、C市文化会館に、ウィーンの風を呼び込んでいた。
アンコールはお約束の「美しき青きドナウ」
T氏の興奮はさらに高まった。
(こっこれが本場モノのワルツだ!)
曲は、いよいよ第5ワルツに入った。
ここで異常事態が。
T氏が立ち上がり奇声を発して、ヴァイオリンを弾きながら、舞台上を歩き回った 
「ナルト! ナルト! ナルト! ナルト!」
あっけにとられる観衆
次の瞬間、T氏は舞台上から、客席に落下した。

C市立病院
T氏は、眠ったままであった。あの日から1ケ月
見舞いに尋ねたミサとアサミは、T氏の姿に言葉がない。
ミサ「Tさんの体、なんか動いているよ」
アサミは、T氏の手を握った。たしかにその手は小刻みに震えている。
アサミ「このリズムは、第5ワルツだわ。ずっと繰り返している」
ミサ「ということは、このまま一生リピートするのかしら」
アサミ「いい考えがある」

病室に、男装の麗人が現れた。
彼女は、二人羽織りよろしく、後ろからT氏の両手をもって、指揮を始めた。
曲はもちろん、「青きドナウ」
しばらく無反応だったT氏の顔が紅潮してきた。
曲は、第5ワルツに突入。
アサミ「ここよ! リピートから出た!」
曲は後奏で華麗な響きを残し終わる。
「ブラボー」
T氏はすっかり目覚め、拍手喝さい。
T氏「あれっ 俺どうしてここにいるの」
ミサ「どうしてじゃないわよ。みんな心配したのよ」と涙まじり。
T氏は、ばつが悪そうに、白髪まじりの頭部をかいた。
T氏「そんなことより腹減ったー ラーメン食いてー」
アサミ「もー 呆れた! いいわよ でも なると は抜きよ」とウインク

おしまい
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