電車、髪、スマホ

文字数 510文字

電車、髪、スマホ

足取りが重い。
一歩踏み出すごとに足の裏から根がはるようで必死に動かしている。
駅について電車を待つ列に並ぶ。
その間も根は足から伸びつづける、そわそわと足を動かしてその根を断ってゆく。

「ねぇ!あれ見て!」

甲高い女性の声が耳を突き刺す。自分のことを言われたのかと、目線だけそちらに移す。
女子高生だろうか?鞄に大きな有名キャラクターの人形を下げている。
片手にスマホを持ち「みて!」といった直後の今も指先はスマホをタップしている。器用なもんだ。
視線をずらしてその女子高生の指先を見る。

年季のはいったスーツに手入れをきちんとしてある革の鞄と靴。さして珍しくないサラリーマンだ。
もう少しだけ顔をあげてそのサラリーマンの頭を見る。

「ぐふぅ」
思わず変な声が出た。咳払いをして取り繕う。周囲に目線を走らせたがだれも気にする様子はない。ほっと胸を撫で下ろした。

女児アニメの主人公が決めポーズで「かみにかわって、おしおきよ!!」と決め台詞をきめている。
不自然なくらい黒々とした髪型を背景にしたそれはどのかみに遣えてるのだろう。

電車が止まる、順番に流れ込む。
もう足から根はのびない。
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