菜の花、蝶々、風
文字数 1,163文字
モンシロチョウが菜の花の周囲をヒラリヒラリと舞う。
風に揺れる菜の花はくすぐったいといっているよう。
その光景の奥にバス停と少女が一人。
白のロングワンピースの裾が風を受けて長くたなびく。モンシロチョウが人形をとったようなその様子に、思わずシャッターを切る。
あぁ、しまった。
最近は肖像権だなんだやかましいんだった。
誰とも話したくなくて風景を撮りに来たのに迂闊だな。小さくため息をついて少女に近づく。
「怪しいもんじゃないんだけど……」
怪しさしかない切り出し方に我ながら天を仰ぐしかない。
「なんですか?」
警戒の色を隠さずに少女が言う。うん、君は正しい。
「えぇっとね……」
次の言葉を必死に探す。隠し撮りしてしまったけど構成的に気に入ったから今度のコンテストに使わせてほしい……と続けようものなら俺なら警察呼ぶね。うん。
少女の視線が首から下げているカメラを見ている……。
正直に話すしかなかった。
「……データ見せてください」
しばらくの間の後返事が帰ってきた。
データを見せるにはカメラを渡すか、隣に来てもらわないといけないんだが、
カメラを見ず知らずの少女に渡して壊されたらこまるし、隣に来いと言われるのは少女が嫌だろう。
「構わないけど…」
どうやってみてもらうか悩んでいると自然に隣に来て少女が画面を覗く。
ただ白いだけだと思っていたワンピースに銀糸で花の模様が刺繍されているのに気づいた。詳しくない自分にもそれが丁寧に作られたものだと感じられる。
「……あぁ、これは綺麗です……私が言うのも変かもですけど!!」
写真を見た後のうっとりとした表情がその言葉がお世辞でないことを物語っている。
「これ、焼き増しとかできますか?……現像代くらいしかお支払できないのですが……」
おずおずと問われる。
「モデル料ってことで、お金は要らないよ」
思いがけない言葉にうっかりとなにも考えずに返してから慌てて付け足す。
「SNSなにかやってる?データだけ送ろうか?」
「お手数かけますもんね……データだけでも大丈夫です……」
スマホを取り出してアカウントを教え合う。
「夢野さんね」表示されたプロフィールを見て名前を確認する。趣味欄に目が行く。
「洋裁好きです」……まさか。
「そのワンピース、作ったの?」
こくんと頷く。あぁそれで。
「モンシロチョウの妖精に見えたんだよね」
思わず率直にシャッターを切った理由を伝えていた。
「えっと……うれしいです」
ほんのり朱色に染まった君の顔を見て俺も黙る。
これが俺らの出会いのお話。
「新郎新婦の入場です!」
司会の声に現実に戻された。
ヴェールの向こうの君が照れたように笑い、僕の腕に手をのせた。
風に揺れる菜の花はくすぐったいといっているよう。
その光景の奥にバス停と少女が一人。
白のロングワンピースの裾が風を受けて長くたなびく。モンシロチョウが人形をとったようなその様子に、思わずシャッターを切る。
あぁ、しまった。
最近は肖像権だなんだやかましいんだった。
誰とも話したくなくて風景を撮りに来たのに迂闊だな。小さくため息をついて少女に近づく。
「怪しいもんじゃないんだけど……」
怪しさしかない切り出し方に我ながら天を仰ぐしかない。
「なんですか?」
警戒の色を隠さずに少女が言う。うん、君は正しい。
「えぇっとね……」
次の言葉を必死に探す。隠し撮りしてしまったけど構成的に気に入ったから今度のコンテストに使わせてほしい……と続けようものなら俺なら警察呼ぶね。うん。
少女の視線が首から下げているカメラを見ている……。
正直に話すしかなかった。
「……データ見せてください」
しばらくの間の後返事が帰ってきた。
データを見せるにはカメラを渡すか、隣に来てもらわないといけないんだが、
カメラを見ず知らずの少女に渡して壊されたらこまるし、隣に来いと言われるのは少女が嫌だろう。
「構わないけど…」
どうやってみてもらうか悩んでいると自然に隣に来て少女が画面を覗く。
ただ白いだけだと思っていたワンピースに銀糸で花の模様が刺繍されているのに気づいた。詳しくない自分にもそれが丁寧に作られたものだと感じられる。
「……あぁ、これは綺麗です……私が言うのも変かもですけど!!」
写真を見た後のうっとりとした表情がその言葉がお世辞でないことを物語っている。
「これ、焼き増しとかできますか?……現像代くらいしかお支払できないのですが……」
おずおずと問われる。
「モデル料ってことで、お金は要らないよ」
思いがけない言葉にうっかりとなにも考えずに返してから慌てて付け足す。
「SNSなにかやってる?データだけ送ろうか?」
「お手数かけますもんね……データだけでも大丈夫です……」
スマホを取り出してアカウントを教え合う。
「夢野さんね」表示されたプロフィールを見て名前を確認する。趣味欄に目が行く。
「洋裁好きです」……まさか。
「そのワンピース、作ったの?」
こくんと頷く。あぁそれで。
「モンシロチョウの妖精に見えたんだよね」
思わず率直にシャッターを切った理由を伝えていた。
「えっと……うれしいです」
ほんのり朱色に染まった君の顔を見て俺も黙る。
これが俺らの出会いのお話。
「新郎新婦の入場です!」
司会の声に現実に戻された。
ヴェールの向こうの君が照れたように笑い、僕の腕に手をのせた。