文字数 939文字

「勝負…ですか?…はい!わかりました!」
戸惑った様子を見せながらも(れん)小鹿(こじか)の挑戦を受けた。
「アンタ達はもう行きな。」
梶原(かじわら)先輩…、死ぬ気ですか…」
一番懐いている後輩が小鹿(こじか)を心配そうに見ていた。
「大丈夫。いつもの店で待ってな。」
ちょっと不良の溜まり場っぽく言ってみたが、”いつもの店”とはお手頃なチェーン店のファミレスである。

取り巻きーズは小鹿(こじか)を心配しつつもそそくさと部屋を出て行った。

――良かった。仲間は見逃してもらえた。

小鹿(こじか)は内心ほっとした。九条(くじょう)が勝てない相手ならば、8人まとめて相手にするくらい訳もないだろう。だがこれで自分だけがボコボコになってこの話は終いに出来る。

――バチが当たったんだ。流れに逆らえなかったとはいえ、友人から金銭を奪おうとしたんだもの…。

小鹿(こじか)は覚悟を決めた。すっと背筋を伸ばし真っ直ぐ立つ。
初めて大地を踏みしめた小鹿のように…。

向かい合う(れん)小鹿(こじか)
クラスメイトの武本(たけもと)烏山(からすやま)はその二人を固唾をのんで見守る。

一対一の勝負。

この言葉の意味を(れん)は決して誤解しなかった。

「あ、ではお先にどうぞ。」
「ほへ?」
(れん)の言葉の意味が分からず小鹿(こじか)は裏返った反応をしてしまった。
「あんまりカラオケ来ないので、イマイチ勝手が分からなくて…。」

*

…83対58。

小鹿(こじか)の勝ちだった。

「ん~…また、負けました…。」
江草(えぐさ)さん、歌は得意じゃないんだね。」
さばさばした烏山(からすやま)が言うと不思議と嫌な気分にならない。
「なんかとがったお経みたいで私は好き!」
「…お経…ですか…」
むしろ武本(たけもと)のフォローの方がツラい。

小鹿(こじか)武本(たけもと)烏山(からすやま)に事情を説明し謝罪した。

九条(くじょう)を見舞ったとき不良仲間のリーダーになってしまったこと、
リーダーらしくあろうと虚勢を張ってしまったこと、
ちょっとお金を借りようと思っただけだったこと…

そして武本(たけもと)烏山(からすやま)も謝罪していた。
二人は(れん)に。

「本当にごめん。江草(えぐさ)さんがいれば手出しできなくなると思ったの。」
烏山(からすやま)がテーブル越しに頭を下げ、続いて武本(たけもと)も頭を下げる。
「ごめんなさい。それから有難う。強大な魔除けみたいな効果に助けられた。」
「…魔除け…ですか…。」
わざと言ってるなら武本(たけもと)は相当性格が悪いだろう。

「でも、梶原(かじわら)さんも武本(たけもと)さんも烏山(からすやま)さんも仲直り出来て良かったです!」
(れん)は心からそう思った。
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