文字数 1,101文字

「だって君はここで死ぬんだからね。」
そう言って玉木(たまき)はマァ君に黒い銃口を向けた。
――拳銃だと?!
しおれて乾ききった50代教員がそんなものを入手することなんて出来るのだろうか。
「そんなおもちゃでビビると思ってんのか玉木(たまき)!」
マァ君はその手にある銃が偽物(にせもの)であると決めて掛かって精一杯の虚勢を奮い立たせた。
「おもちゃかどうか、試してみよう…。さらばだ、正直(まさなお)君。」

*
パンッ!

第二音楽室の方から乾いた音が聞こえた。
「…銃声?…まさか!!!」
私は声に思わず出した不吉な予感に戦慄し、だが足は第二音楽室に向かう渡り廊下を駆けていた。

この時期、体育館は冷える。
全校集会の時に気分が悪くなる生徒も多いから、私はそのための準備を整えていた。が、今日に限って切らしてしまった品物があって、代用品を引き出しのあちこちから探している間に全校集会が始まる時間を過ぎてしまっていた。
昨晩、古沢(ふるさわ)君と遅くまでチャットしてして寝坊し、準備の取り掛かりが遅くなってしまったのも原因かもしれないが…。

体育館に入り、目立たぬように教員の列に紛れ込もうとした丁度その時に吹奏楽部の演奏が始まろうとしていた。
教頭の「校歌斉唱!」という声に続く刹那の静寂を、生徒指揮者の指揮棒が細く切り裂く…。

タンバリンのロール!?

本来は小太鼓(スネアドラム)のパートを江草(えぐさ)(れん)の加入をきっかけにアレンジしたのかもしれない…

「?!?!」
「?!?!?!」
「?!?!?!?!」

体育館中にどよめきが起こる。

ステージ前方、吹奏楽部員達が固まっている一団の一番奥に江草(えぐさ)(れん)を確認出来た。ご丁寧に一段高い台に乗せられているのか、遠くからでもよく見えた。

そこに散らばったのは音よりも、むしろ光…。

私は反射的に目を固く閉じ耳も塞いだ。
そして直後、襲い来る強烈な眩暈(めまい)…。足元がデタラメな飴細工みたいにぐにゃぐにゃと定まらない。倒れ込みそうになるが、壁にもたれながらもなんとか耐えた。
こうなることは分かっていた。光に魅入られてしまうとどうなるか、そしてその制御(制御)(くだる)ることを拒めばどうなるか、古沢(ふるさわ)君から聞いて知っていたからだ。他でもない古沢(ふるさわ)正直(まさなお)本人が、今の私と同じ状況になり、保健室に運び込まれたのだから…。

とうとう私は、何とか気を失わずに持ちこたえた。
荒い息を落ち着かせようと、ゆっくりと大きく呼吸する。

――大丈夫だ、ちゃんと私だ、意識もある。

私は一旦安堵し目を開いた。
が、その光景に、少しでも安堵した自分を恥じた。

全校生徒が校歌を熱唱しながら踊り狂っていた…

全員…タンバラーになってしまった…
恐らくは、正気でいるのは私一人しかいないのだろう…。

だが、こうなることも分かっていた!

もちろん、次にやることも!!



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