文字数 1,272文字

教室でもマァ君、あの不思議な光のことばかり考えていた。周囲の人を踊らせてしまう異様な性質ももちろんだが、もっと異様なのはその"異様さ"に誰も気付いていないかもしれない、ということだ。
お昼休みに早速クラスメイトで唯一の友人である七餅(ななもち)(りつ)にそれを改めて尋ねてみた。
「ああ、そう、それね…。」
と、(りつ)はいつになく煮え切らないような、バツが悪そうな態度で話し始める。
「急に奇声発したり踊り始める先輩たちとか見て、最初は驚いたし正直怖いなって思ったんだけども、いや、なんなら今でも思うよ。でもそういうものなんだろうね。」
と言う…。
「…いやいや待て待て!人を操る音だぞ?そういうものなんだろうね、で片付く範疇を超えてんじゃんか!」
マァ君は(りつ)の肩を両手で強く掴んだ。
「どう考えたっておかしいだろ!」
「や、やめろ古沢…」
「どうしたの?」
そこへ女子生徒が通りかかった。
マァ君と(りつ)は教室から少し離れた廊下で話していたのだ。
この人は見たことがある。(りつ)の送ってくれる画像や動画の中にもたまにいたかもしれない。
「部長」
名前は忘れた、というか知らないけれど、部長と呼ばれたからには吹奏楽部の部長だろう。
「何してるの?」
そう聞きたくもなるだろう。廊下で部活の後輩が絡まれているように見えなくもない。
「いえ、ちょっと話していただけd…」
(りつ)はトラブルや厄介事が嫌いだ。だからこの場面も、そんな面倒に発展しそうなやりとりを長引かせたくなかったのかもしれない。

だがマァ君は浮かんだ言葉をひっこめられない病気(タイプ)だ。

「俺、こいつのクラスメイトの古沢です!安心してください。」
しまった…一番安心できなそうなことを言ってしまった。まあいい。
「…はぁ、どうも…。」
吹奏楽部部長は表情を強張らせ後ずさりながらも会釈を返してくれた。いい人だ!

そしてマァ君は部長に話した。
校内で噂になっている江草(えぐさ)先輩が叩くタンバリンについて…。
「ああ、そうね…私も初めてカラオケで見たときは驚いたし、何度聞いても体が動いちゃうから不思議だなって思うけど、でも…そういうものなんでしょうね。」

まただ…(りつ)と同じことを言った。

そういうものなのだ、と

何だろう…。隠したり誤魔化したりするのなら、もっと徹底的にやるはず…。

それに、同じことを言い、同じ顔をした…。(りつ)も吹奏楽部の部長もともに、理由を言葉にしようとして、上手くいかない、というような表情をしたのだ。
口裏を合わせたようでも、口止めをされているようでもない。
本当にそういうものだ、と思っているのだ。
タンバリンの音が聞こえた瞬間踊ってしまう、その不思議な状況を不思議と思いながらも、疑念を抱けない状態になっているのだ…。

洗脳?!

催眠術?!

分からない…、
今いろいろと思考しても効率が上がらないから帰宅したら熟考しよう。
有益な情報を頂いてばかりでも申し訳ないので、マァ君も吹奏楽部部長にいろいろと話してあげた。

マァ君が江草(えぐさ)先輩が気になっていること
マァ君が江草(えぐさ)先輩の画像や動画を集めていること
マァ君が江草(えぐさ)先輩を待ち伏せしたり尾行したりし始めたこと

などを話した。


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