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文字数 1,314文字

サッちゃんは学校の敷地内を正直(まさなお)の後について歩いた。運動部の部室か倉庫に使っているのだろうプレハブ小屋の間を抜け、寒々とした水を湛えるプールの脇を通り、校庭を裏側から臨む校舎の陰に出た。しかしこうして見ると本当にこの校舎は古い。
そして生徒や職員や来場者が校庭に集められているせいか、少しだけしか離れていないのにここは人気(ひとけ)がない。

――?!はっ…こ、これは…

今日もサッちゃんは冴えていた。また瞬時に真実に到達してしまった。いや今回はボーナス問題という(ほか)ないかもしれない。
だって男子が女子を人気(ひとけ)のない校舎裏に誘う理由なんて一つしかない!

そう、愛の告白だ…。

今更告白なんてしなくても…とは思うが、
ケジメも大事だよ、ということだろうか…
"付き合ってる"という状況だけが揃うだけじゃなく、ハッキリと言葉による確認が必要、ということだろうか…。
ならば彼の流儀に寄り添うのも年上の女性としての義務…?とまではいかないけれども、まぁそういうものなのかもしれない。
「大事なお願いって何?」
サッちゃんは正直(まさなお)が話を切り出しやすいように水を向けた。

「これは…九条(くじょう)さんにしかお願いできません。」
サッちゃんでいいのに…いや、焦らずに時間をかけてゆっくり育んでいくべきだろうか…
「うん。」
サッちゃんは(うなず)くだけにした。
「今から校庭でパレードが行われます。」
「うん。」
パンフレットにも案内してある。オープニングセレモニーのオープニングパレードだ。結構校内の敷地を歩き回ってここまできたからもうあと数分で始まるのではないだろうか…。校庭の様子は見ていないが、雰囲気から察するに大分多くの人が集まっているようだ。正直(まさなお)はここにいてもいいのだろうか。何か特別な役割をもった係なのだろうか…。何故校庭に行かないのだろうか…。
「俺と一緒に、パレードを()めて下さい。」
「…うん?」
相槌がおかしなイントネーションになった。
パレードを()める、と聞こえた。いや確かにそう言った。彼の言うパレードとは今から始まるパレードのことだろうか…。サッちゃん混乱!
「今からやるやつ、()めるってこと?」
もう、まんま尋ねるしかない。
「そうです。」
「何で?」
そうだ!分からないことをどんどん聞いて行こう。
「人が殺されるからです。」
「…そっか。」
正直(まさなお)、ちょっと頭か心のどっちか、或いはどっちも、が弱い子なのかもしれない。周囲から浮いてしまって、理解し合える友人も信頼できる恩師にも巡り合えずに、ただただ孤独に(さいな)まれながら学校生活を送っていたのかもしれない。そんなとき、同じようにファミレスで独りぼっちにしているサッちゃんを見掛けて、(すが)るような気持ちで声を掛けたのかもしれないきっとそうだ。

サッちゃんが正直(まさなお)を助けるんだ。

「分かった。私に出来ること、ある?」
サッちゃんは出来るだけ明るい笑顔でそう言ったつもり。

遠くで号令の笛の音。
「やばい!始まる。九条(くじょう)さん!目を閉じてください!」
目を閉じる?人気のない校舎裏で…?チュウだなこれ間違いなく…
サッちゃんが正直(まさなお)の"大事なお願い"を快諾したので急に距離が縮んだのかもしれない!
「うん。」
サッちゃんは少し上向き加減に目を閉じた。
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