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文字数 575文字

入口には長く緩やかなスロープがあった。木の板を繋げて固定しただけの簡素なものだが、頑丈には作ってある。
両開きの扉の片方が開け放たれている。大きな楽器を搬入出する際には全開にするのだろう。
(れん)笹塚(ささづか)ツカサの後について第二音楽室に入ると、既に部員が何人かいて、楽器を準備したり、黒板に今日の練習スケジュールを書いたり、下級生がパイプ椅子を並べたりしていた。

その全員が一斉に(れん)に目をやり、一瞬で目をそらした。話し声も止んだ。彼女の周囲は以前よりだいぶ友好的に接してくれるようになった、とはいえ(れん)の”怖いヤツ”というイメージは完全に払拭(ふっしょく)出来た訳ではないらしい。
(れん)さん、こっちだよぉ!」
「あ、はい。」
(れん)に気を遣ってか、笹塚(ささづか)ツカサがわざとらしいくらい明るい調子で手招きながら奥の扉を開けた。
「打楽器は大きいからこっちなの。」
楽器庫がいくつかある、という意味だろうか、その先には確かに数々の大きな楽器が収納されていた。

独特の匂いがあった。
楽器の匂いだろうか。
木と、動物の皮と、古い楽譜のちょっとカビ臭さの混ざった空気…。

扉を閉めると、そこにある楽器が全て一斉に微かに鳴った、気がした。

「ねえ、(れん)が使ったのってどれ?」
なんだかゴソゴソやっていると思ったら笹塚(ささづか)ツカサは片手に二つずつのタンバリンを持って振り返った。

「え?!タンバリンって、こんなに種類があるんですね!」
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