第48話 1月27日。満喫。

文字数 1,506文字

14時頃に起きると、倦怠感も薄れて、頭もだいぶスッキリした。
熱を測ると37.1度とほぼ平熱だ。

スマホを見ると、今度は「三月家 珠洲⇔金沢」のグループに新しい投稿があった。
はるき君やともき君はスマホを持っていなかったが、医王山スポーツセンターでの生活が始まるにあたって、清恵さんが連絡用に一台スマホを用意してはるき君に渡していた。
「友達とバスで金沢駅に来ました。駅ナカのマクドナルドでお昼ご飯!」
はるき君、ともき君以外にも合計6名の男子中学生が、美味しそうにマクドナルドを食べている写真が投稿されている。
「楽しそう!私は珠洲の家に着きました。みんな元気やよ」
マクドナルドの投稿に対して、清恵さんが返信していた。
その後の投稿には珠洲の三月家の前で、お義父さん、お義母さん、隆太さんの笑顔溢れる写真が投稿されている。

過疎化が進む七尾以北の奥能登では、全国展開するような飲食チェーン店は一つもない。
マクドナルドや牛丼チェーンは珠洲から70キロ近く離れた七尾市までにしか出店しておらず、ファミレスは確か50キロ近く離れた奥能登の入口の穴水市に一軒あったかどうかだ。
そんな珠洲で生活していると、テレビのCMで流れる美味しそうなファーストフードの数々は子どもたちの憧れの的だ。
友達と連れ立って行くことができて、はるき君や友達達も本当に楽しそうだ。

ピロリン。
スマホからグループ投稿の着信の音が鳴る。
「今からフォーラスで映画。ゴジラ」
今度は駅前の金沢フォーラスのイオンシネマで、ゴジラのポスター前でポーズを取る中学生一行の写真が投稿された。
能登方面の映画館は、能登の入口のかほく市のイオンにしかなく、珠洲からは100キロ以上離れている。
家のテレビでサブスクが見放題の世の中にはなったが、友達同士で大音量の映画館で映画を見ると経験は奥能登の子どもたちにはなかなか出来ない。

避難した能登の中学生達が色々な経験を重ねていくことは、非常にいいことだと思う。
隆太さんもそれを期待して、早い段階から2人の子供を金沢で暮らすことに決めたのだろう。
友達と再開した嬉しさや、初めてスマホを持った高揚感からか、はるき君やともき君から次々と「三月家 珠洲⇔金沢」のグループに送られる写真や文書を楽しく眺めた。

一方、「珠洲支援」のグループにもいろいろな写真や文書が送られてきた。
トイレに立ち寄った「のと里山空港」に、元旦の発災以来の再開第1便となる羽田発全日空便が到着したとのこと。
まだ定期便の復旧は先のようだが、再開の第一歩をようやく踏み出せた。

そして上戸小学校の避難所の写真。
1週間前に比べて避難の人が少なくなっているようにも見えた。
金沢以南への2次避難が本格化してきており、順々に多くの人達が珠洲から離れてしまっているように思える。
寂しいが今の水道や下水が復旧しない珠洲では仕方が無いことだとも思う。
避難所の写真には美久ちゃんが先陣を切って飾った花々が、更に増えていて避難所に彩りを添えていた。
柳さんもマッサージを開始し、所長やスイートTAKUさんも物資を皆さんに届いている。

上戸小学校は比較的大きな避難所であるため、自衛隊の入浴支援や炊き出しなどが本格的に運用され、日ごとに現代人らしい生活が取り戻せているという。
グランドには自衛隊のテントも多く設置された写真も送られてきた。
次第に僕らの支援も大きな避難所から、小さな避難所にシフトする時期なのかもしれない。
小さな集落に残っている人たちの方が心配だ。
その辺りは来週所長達が帰ってきたら、実情を踏まえ今後の計画を立ていこう。

レイちゃんに作ってもらったうどんを食べながら、色々な投稿を眺めて過ごした。
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