第28話 1月6日。物資。

文字数 1,029文字

「あら、あんた達本当に戻ってきたんか。金沢に居ればよかったんに」
避難所の体育館で食料の配給を仕分けしていたお義母さんと出会えた。
お義母さんが、はるき君とともき君の手を握った。
「けど、よー戻ってきたなぁ」
2人の兄弟はおばあちゃんの手を握りながら泣いていた。
生まれてからずっと一緒に過ごしてきた家族と初めて離れ離れになった。
寂しさや心配でいっぱいだったのだろう。

体育館を見回すと避難している人数は半分ぐらいになっていた。
顔見知りになった町会長さんに聞くと、僕のような珠洲市以外の生活者で、お正月に帰省していた人はそれぞれの自宅に帰っていったという。
余震も少なくなったので、自宅に辛うじて住める家族も徐々に帰宅していっている。
避難所に住むのは元々珠洲に住んでいた、古い家で倒壊したお年寄りが中心になっている。

避難所の状況は僕たちが金沢に戻った3日の日の朝とほとんど変わっていない。
体育館前に仮設トイレが2台設置されたのがせめてもの救い。
この人数で2台では全然足りないだろうけど、女性だけでも仮設トイレが使えたらと思う。

自衛隊の懸命な働きのお陰で、時折水や灯油、食料など生命を維持していくうえで最低限の物資は配布されるようになった。
だがまだまだ何もかもが足りない。
僕たちがライトバンいっぱいに積んできた支援物資をはるき君達と避難所の中に運んだ。
積み込んだときは多く感じた物資も、この状況では焼け石に水かもしれない。

それでもかき集めたモバイル充電器を設置すると、多くの人のスマホを充電することができて喜ばれた。
停電と断水は続いているが、各大手キャリアの懸命な復旧作業で少しづつスマホの通信も使えるようになったらしい。
スマホを見ると、弱いながらもアンテナが立っている。
情報が少しづつ入ってきて、何が起こったのかわからない不安感は払拭されつつある。
災害時の情報は、精神的に安定するためにも重要だ。

子供、大人用のオムツや生理用品、替えの下着など、今の避難所に足りない物資は瞬く間に無くなった。
当然ながら避難所にいる方は、1日の発災以来誰もお風呂に入れていない。
ドライシャンプーや介護用の体拭きなども多くの人が喜んでくれた。
生きる上に必要な物資が無論一番大切だが、少しづつでも人間らしく生きられる物資が求められてきていると感じた。

お義父さんと隆太さんは三月家の後片付けをしているという。
物資の積み下ろしも終わり、一息つくまもなく清恵さん親子三人を車に載せて、三月家に向かった。
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