第66話 ひと目だけでも
文字数 611文字
舞いの奉納が住むと、乗船が始まった。
戦場に直行するわけではないので、軽装の兵たちはそれぞれに荷物を持ち、粛々と大型船に乗りこんでいく。
本来ならば大将が真っ先に乗りこむところだが、隼人自身が最後でよいと望んだのだ。
自分が率いていく兵の全員が、出発するところを見届けたかった。
ひとりひとりの姿に眼をこらしながら、隼人は唇を引き結んだ。
どうなるか予想もつかない戦だ。いったい、どれくらいの者が無事に帰還できるだろうか。
隣では用意された椅子に藤音が座っていた。
昨夜言った通り、涙などひとかけらも見せず、落ち着いた態度で出立の様子を見守っている。
領主の息女として生まれ、今は領主の正室であるという誇りが、藤音を支えていた。
舞台を降りた桜花は装身具を外し、巫女服の上に地味な灰色の肩掛けをはおると、伊織の姿を探した。
巫女ではなく桜花として、別れる前にひと目だけでも会っておきたかった。
最後の兵が乗りこむと隼人は立ち上がった。影のように付き従う和臣と伊織も動き出す。
「では、藤音。行ってくる──」
隼人が静かに告げると、
「船着き場までお見送りいたします」
藤音もまた椅子から立ち上がり、一行は桟橋へと向かって歩き出した。先頭を和臣が進み、間に隼人と藤音、二人を守るように最後を伊織が行く。
戦場に直行するわけではないので、軽装の兵たちはそれぞれに荷物を持ち、粛々と大型船に乗りこんでいく。
本来ならば大将が真っ先に乗りこむところだが、隼人自身が最後でよいと望んだのだ。
自分が率いていく兵の全員が、出発するところを見届けたかった。
ひとりひとりの姿に眼をこらしながら、隼人は唇を引き結んだ。
どうなるか予想もつかない戦だ。いったい、どれくらいの者が無事に帰還できるだろうか。
隣では用意された椅子に藤音が座っていた。
昨夜言った通り、涙などひとかけらも見せず、落ち着いた態度で出立の様子を見守っている。
領主の息女として生まれ、今は領主の正室であるという誇りが、藤音を支えていた。
舞台を降りた桜花は装身具を外し、巫女服の上に地味な灰色の肩掛けをはおると、伊織の姿を探した。
巫女ではなく桜花として、別れる前にひと目だけでも会っておきたかった。
最後の兵が乗りこむと隼人は立ち上がった。影のように付き従う和臣と伊織も動き出す。
「では、藤音。行ってくる──」
隼人が静かに告げると、
「船着き場までお見送りいたします」
藤音もまた椅子から立ち上がり、一行は桟橋へと向かって歩き出した。先頭を和臣が進み、間に隼人と藤音、二人を守るように最後を伊織が行く。