第92話 命令と頼み
文字数 585文字
「まずひとつ。この戦には総大将から厳命が下されている。戦えぬ民には決して手を出さぬよう。民衆への略奪や狼藉も厳禁とする。違反した者は例外なく厳罰を覚悟せよ!」
この時ばかりは隼人も厳しい顔つきになって宣言した。
蘇芳が命じなければ、自分の率いる部隊だけでもそうするつもりだった。
が、すぐに表情を和らげ、
「もちろん九条軍には、そのような不心得者はいないと信じている」
いつもの柔らかなもの言いで兵たちを安心させる。
「二つめは倭国の軍勢ではわれらが最後尾だという事実だ。戦闘はこの街道のはるか先で行われている。おそらく九条軍の出番はないだろう」
人々の間に動揺したざわめきが起こった。
はるばる海を越えてやって来たのに、参戦すらかなわないという現実は、兵たちを失望させるのに充分だった。
だとしたら、自分たちはこの異国でいったい何をすればよいのか。
兵たちの困惑する視線を一身に浴びながら、隼人は静かに言った。
「ゆえに武勲など立てずともよい。それにわたしは総大将の柊蘇芳に疎まれているから、そのような機会もないだろう。戦うとしたら、自分と自分の大切な者を守るためだけでいい」
隼人は改めて兵たちを見つめ、
「最後に、これは命令ではないが、皆に頼みがある」
この時ばかりは隼人も厳しい顔つきになって宣言した。
蘇芳が命じなければ、自分の率いる部隊だけでもそうするつもりだった。
が、すぐに表情を和らげ、
「もちろん九条軍には、そのような不心得者はいないと信じている」
いつもの柔らかなもの言いで兵たちを安心させる。
「二つめは倭国の軍勢ではわれらが最後尾だという事実だ。戦闘はこの街道のはるか先で行われている。おそらく九条軍の出番はないだろう」
人々の間に動揺したざわめきが起こった。
はるばる海を越えてやって来たのに、参戦すらかなわないという現実は、兵たちを失望させるのに充分だった。
だとしたら、自分たちはこの異国でいったい何をすればよいのか。
兵たちの困惑する視線を一身に浴びながら、隼人は静かに言った。
「ゆえに武勲など立てずともよい。それにわたしは総大将の柊蘇芳に疎まれているから、そのような機会もないだろう。戦うとしたら、自分と自分の大切な者を守るためだけでいい」
隼人は改めて兵たちを見つめ、
「最後に、これは命令ではないが、皆に頼みがある」