第44話 心のままに
文字数 659文字
しかも藤音にはわかっていた。蘇芳が本当に手に入れたがっているのは自分自身ではなく、九条隼人の妻だ。ちょうど子供が他の子供の玩具を欲しがるように。
長い沈黙の後、藤音は決意をこめて告げた。
「お心のままに、なさいませ」
静かな、しかし凛とした口調。
「隼人さまがどのような決断を下されようと藤音は沿います。決して後悔などいたしません」
「藤音……」
「わたくしはあなたさまの妻です。覚悟はできておりますわ」
強い想いを秘めて微笑んでみせる。
世界中が敵になろうと自分だけは隼人と共にありたい。たとえ、どんな結末になろうとも。
ひっそりと夜はふけていった。
返答の期限は明朝。蘇芳が京の都へ発つ刻限までだ。
「いかがいたしましょう。もし隼人さまがおひとりでゆっくりと考えたいのでしたら、わたくしは自室に下がりますが……」
遠慮がちに問いかける藤音の手を取りながら、いや、と隼人はかぶりを振った。
「藤音にはここにいて欲しい。わたしのそばに」
「では、おそばにおります。このままご一緒に」
二人はひとまず座り、寄り添った。隼人の胸に顔を埋める藤音の耳に、規則正しい鼓動が伝わってくる。
こんなに大変な時なのに、ひどく静かな夜だった。
侍女たちは事情を察して誰も来ない。あたりは物音ひとつせず、まるで世界に二人きりでいるかのようだ。
隼人の考え事の邪魔をしないよう、藤音はただ黙って腕の中に身をまかせていた。
長い沈黙の後、藤音は決意をこめて告げた。
「お心のままに、なさいませ」
静かな、しかし凛とした口調。
「隼人さまがどのような決断を下されようと藤音は沿います。決して後悔などいたしません」
「藤音……」
「わたくしはあなたさまの妻です。覚悟はできておりますわ」
強い想いを秘めて微笑んでみせる。
世界中が敵になろうと自分だけは隼人と共にありたい。たとえ、どんな結末になろうとも。
ひっそりと夜はふけていった。
返答の期限は明朝。蘇芳が京の都へ発つ刻限までだ。
「いかがいたしましょう。もし隼人さまがおひとりでゆっくりと考えたいのでしたら、わたくしは自室に下がりますが……」
遠慮がちに問いかける藤音の手を取りながら、いや、と隼人はかぶりを振った。
「藤音にはここにいて欲しい。わたしのそばに」
「では、おそばにおります。このままご一緒に」
二人はひとまず座り、寄り添った。隼人の胸に顔を埋める藤音の耳に、規則正しい鼓動が伝わってくる。
こんなに大変な時なのに、ひどく静かな夜だった。
侍女たちは事情を察して誰も来ない。あたりは物音ひとつせず、まるで世界に二人きりでいるかのようだ。
隼人の考え事の邪魔をしないよう、藤音はただ黙って腕の中に身をまかせていた。