第51話 水軍の力

文字数 594文字

 ここからが隼人が真砂を訪れた本題である。
「文を拝見しました。わが水軍の船に草薙の兵を乗せて欲しい、とのご用向きでしたな」
「その通りでございます。曽我さまもご存じのように、草薙は水軍を持っておりません。今から船を造っていたのではとても間にあわず、曽我水軍の力をお借りしたく、まかり越しました」
「兵の数はいかほど?」
「動員令に従い、約三百名ほどになるかと」
 兼光はゆっくりと立ち上がり、窓の方へ歩み寄って隼人を手招きした。乞われるまま隼人がかたわらに立つと、窓の外を指さす。
 窓からは葉を落とした木々のむこうに入り江が見え、眼にした光景は隼人を圧倒した。
 これが噂に聞く、曽我水軍。
 大型の軍船から小船に至るまで、おびただしい数の船が所狭しと湾に停泊している。
 全部で何隻になるだろうか。これほど多くの船が集結しているさまは、今まで見たことがない。
「確かに一時に三百人を運ぶのは大変ですが、文にもあった通り、分散して少人数にすれば充分に可能でしょう」
 隼人は驚嘆しつつも、真剣な面持ちで老武将を見た。
「では、曽我さま、お願いできますでしょうか」
「わが水軍をもって草薙の兵を羅紗まで運ぶこと、お引き受け申した」
 かたじけない、と隼人は深い感謝をこめて老当主の手を取った。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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