十七 逮捕
文字数 2,318文字
二月二十一日、金曜、午前六時。
「ねえ、タエ。雪で休みだよ・・・」
ケイが布団の中でスマホを見てタエに言った。インターネットのMarimura社員専用ホームページで、
「本日金曜は、降雪のためMarimuraは休業する」
と伝えていた。
タエはリモコンでテレビのスイッチを入れた。画面に首都圏の降雪の様子が映っている。五十センチくらい積っている。これだと雪がやんでも土曜と日曜の交通は麻痺状態だろう。
タエはチャンネルをTVJのニュースに変えた。
TVJの報道フロアが、
『Marimuraの前社長、鞠村まりえ逮捕』
と緊急ニュースを報じて、TVJの報道フロアがあたふたしている。
「ケイ!見て!」
タエはケイの腕を引っぱって、テレビのTVJの報道フロアに見入った。
「いったい、何があったんだべ?」
ケイも布団から身を乗りだしてテレビに見入った。
「さっき、TVJの報道フロアに連絡をした時、浅岡ディレクターは何も話してなかったぞ!」
ケイは、TVJ報道フロアのディレクター浅岡智則に、今回の一連の事件を記録したメモリーチップ送っている。ケイはタエの伯母の旦那のTVJの社長から、浅岡智則は信頼できるディレクターだと聞いている。
TVJの報道フロアで、キャスターがパネルを示した。Marimuraの新旧ふたつの経営陣の組織図が描かれている。
『Marimuraの前社長の鞠村まりえが、横領と背任と独占禁止法違反の容疑で逮捕されました。くりかえしてお伝えします。
Marimuraの前社長の鞠村まりえが、横領と背任、独占禁止法違反の容疑で逮捕されました。
東京地検特捜部によりますと、鞠村まりえは長年にわたり、Marimuraの企画を私的に販売して、鞠村まりえの個人会社Marie Marimuraに投資していたとのことです。
なお、鞠村まりえはMarimuraの株式30パーセントと、Marie Marimuraの株式100パーセントを所有しています。
また、新経営陣を巡って、現在の社長の本田孝夫と、事業部長の本田康夫が、全国色彩協会と全国テキスタイル協会の理事を逮捕監禁した容疑で逮捕されました。二人は株式の50パーセントを保有する株主たちに、鞠村まりえの社長解任と本田孝夫の社長就任を強要した容疑がかけられています。
さらに、Marimuraのアクセサリー部から時価総額三百万円の宝石が紛失している事が明し、新経営陣が横領したとして追求しています。
くりかえします。Marimuraの株主から、前社長の横領と背任の告発を受け、東京地検は・・・』
思わずタエはケイを見た。すると、ケイが間髪入れずに言う。
「なんも言うな。私はなんも聞いてねえぞ。家電の代わりに、指輪をもらったなんて聞いてねえぞ」
「言う気はねえさ。引っ越しで何処にあった忘れたさ。何処だったかなあ・・・」
タエはしばらく考えたが、何処へ指輪を片づけたか憶えがない。
だいたい、あたしはアクセサリーなんかに興味が無い。身に付けるだけで危険を感じる。
耳に付けた物がどこかに引っかかれば、確実に耳を怪我する。
首にかけた物も、腕に付けた物もそうだ。
時計さえわずらわしいから付けてない。スマホがあればたくさんだ。
唯一、シュシュだけが髪のアクセサリーになってるけれど、無ければ輪ゴムでも靴紐でも何でもいい。
その代り、洋服は好きだ。着るのでなく、デザインするのが好きだ・・・。
「まあ、どうでもいいべさ。さあ、連休だぞ。タエ。何して遊ぶ?」
ケイは布団の中で右側を下にして頬杖を突いた。左側のタエを見つめている。
「もうちいっと、寝るべさ・・・」
タエはケイを見ながらそう言ってテレビを見ている。
「雪も降ってるから買物は無理だな。食い物はある。寝るにかぎる。寝るか・・・」
ケイがそう言ったとき、TVJの報道フロアが、
『Marimura株主総会は、近日中に、新社長の本田孝夫に代る新経営体制を公表するとコメントしました・・・』
と伝えた。
「本田孝夫に代る新経営体制ってなんだよ!」
ケイは驚いてテレビを見たが、新経営体制に関する事は報じていない。
「関係ないね。どっちにしろ、本田康夫たちが排除されたってことだベ」
タエは、サア、寝るベ、と言って布団に潜りこんでいる。
「そうだな・・・。だけど、株主総会の事なんか聞いてねえぞ・・・」
ケイも、TVニュースをそのままにして布団に入った。
「株主たちはMarimuraに内緒で動いてた。
ヤスオたちは、単なる駒だったんだ・・・」
布団の中でそう呟いて、タエが布団から顔を出した。
「ねえ、ケイ!株主たちは、何をする気だろう?」
「Marimuraを支配しようとする者を徹底的に排除する気なんだべさ。
そうでなきゃ、株式20パーセントを持つ中林宗佑の身内のヤスオたちを、もっとうまく使うべさ・・・」
ケイは天井を見ながら話して、何か考えている。
タエがケイに尋ねた。
「ケイは、休み明けに人事異動があると思うか?」
「テレビで報道されたんだから、あるべな・・・」
「そうだね・・・」
タエも納得してる。
ケイが身体を捻ってタエを見た。
「ねえ、タエ」
「なに?」
タエもケイを見かえした。
「ハラヘッタ。なんか食ってから、寝ない?」とケイ。
「フリーズドライ。お粥はどう?」
「いいね。ついでに、鍋物しようか。家から送ってきた野菜があるべさ」
キッチンに、タエの実家とケイの実家から届いた段ボールの箱がある。中に乾物や野菜が入っている。
「そしたら、朝から、一杯、やっか?」
「そりゃあ、いい!今日は休みだ!朝酒の後は、朝寝だべさ」
二人はあっという間にふとんから出た。
「ねえ、タエ。雪で休みだよ・・・」
ケイが布団の中でスマホを見てタエに言った。インターネットのMarimura社員専用ホームページで、
「本日金曜は、降雪のためMarimuraは休業する」
と伝えていた。
タエはリモコンでテレビのスイッチを入れた。画面に首都圏の降雪の様子が映っている。五十センチくらい積っている。これだと雪がやんでも土曜と日曜の交通は麻痺状態だろう。
タエはチャンネルをTVJのニュースに変えた。
TVJの報道フロアが、
『Marimuraの前社長、鞠村まりえ逮捕』
と緊急ニュースを報じて、TVJの報道フロアがあたふたしている。
「ケイ!見て!」
タエはケイの腕を引っぱって、テレビのTVJの報道フロアに見入った。
「いったい、何があったんだべ?」
ケイも布団から身を乗りだしてテレビに見入った。
「さっき、TVJの報道フロアに連絡をした時、浅岡ディレクターは何も話してなかったぞ!」
ケイは、TVJ報道フロアのディレクター浅岡智則に、今回の一連の事件を記録したメモリーチップ送っている。ケイはタエの伯母の旦那のTVJの社長から、浅岡智則は信頼できるディレクターだと聞いている。
TVJの報道フロアで、キャスターがパネルを示した。Marimuraの新旧ふたつの経営陣の組織図が描かれている。
『Marimuraの前社長の鞠村まりえが、横領と背任と独占禁止法違反の容疑で逮捕されました。くりかえしてお伝えします。
Marimuraの前社長の鞠村まりえが、横領と背任、独占禁止法違反の容疑で逮捕されました。
東京地検特捜部によりますと、鞠村まりえは長年にわたり、Marimuraの企画を私的に販売して、鞠村まりえの個人会社Marie Marimuraに投資していたとのことです。
なお、鞠村まりえはMarimuraの株式30パーセントと、Marie Marimuraの株式100パーセントを所有しています。
また、新経営陣を巡って、現在の社長の本田孝夫と、事業部長の本田康夫が、全国色彩協会と全国テキスタイル協会の理事を逮捕監禁した容疑で逮捕されました。二人は株式の50パーセントを保有する株主たちに、鞠村まりえの社長解任と本田孝夫の社長就任を強要した容疑がかけられています。
さらに、Marimuraのアクセサリー部から時価総額三百万円の宝石が紛失している事が明し、新経営陣が横領したとして追求しています。
くりかえします。Marimuraの株主から、前社長の横領と背任の告発を受け、東京地検は・・・』
思わずタエはケイを見た。すると、ケイが間髪入れずに言う。
「なんも言うな。私はなんも聞いてねえぞ。家電の代わりに、指輪をもらったなんて聞いてねえぞ」
「言う気はねえさ。引っ越しで何処にあった忘れたさ。何処だったかなあ・・・」
タエはしばらく考えたが、何処へ指輪を片づけたか憶えがない。
だいたい、あたしはアクセサリーなんかに興味が無い。身に付けるだけで危険を感じる。
耳に付けた物がどこかに引っかかれば、確実に耳を怪我する。
首にかけた物も、腕に付けた物もそうだ。
時計さえわずらわしいから付けてない。スマホがあればたくさんだ。
唯一、シュシュだけが髪のアクセサリーになってるけれど、無ければ輪ゴムでも靴紐でも何でもいい。
その代り、洋服は好きだ。着るのでなく、デザインするのが好きだ・・・。
「まあ、どうでもいいべさ。さあ、連休だぞ。タエ。何して遊ぶ?」
ケイは布団の中で右側を下にして頬杖を突いた。左側のタエを見つめている。
「もうちいっと、寝るべさ・・・」
タエはケイを見ながらそう言ってテレビを見ている。
「雪も降ってるから買物は無理だな。食い物はある。寝るにかぎる。寝るか・・・」
ケイがそう言ったとき、TVJの報道フロアが、
『Marimura株主総会は、近日中に、新社長の本田孝夫に代る新経営体制を公表するとコメントしました・・・』
と伝えた。
「本田孝夫に代る新経営体制ってなんだよ!」
ケイは驚いてテレビを見たが、新経営体制に関する事は報じていない。
「関係ないね。どっちにしろ、本田康夫たちが排除されたってことだベ」
タエは、サア、寝るベ、と言って布団に潜りこんでいる。
「そうだな・・・。だけど、株主総会の事なんか聞いてねえぞ・・・」
ケイも、TVニュースをそのままにして布団に入った。
「株主たちはMarimuraに内緒で動いてた。
ヤスオたちは、単なる駒だったんだ・・・」
布団の中でそう呟いて、タエが布団から顔を出した。
「ねえ、ケイ!株主たちは、何をする気だろう?」
「Marimuraを支配しようとする者を徹底的に排除する気なんだべさ。
そうでなきゃ、株式20パーセントを持つ中林宗佑の身内のヤスオたちを、もっとうまく使うべさ・・・」
ケイは天井を見ながら話して、何か考えている。
タエがケイに尋ねた。
「ケイは、休み明けに人事異動があると思うか?」
「テレビで報道されたんだから、あるべな・・・」
「そうだね・・・」
タエも納得してる。
ケイが身体を捻ってタエを見た。
「ねえ、タエ」
「なに?」
タエもケイを見かえした。
「ハラヘッタ。なんか食ってから、寝ない?」とケイ。
「フリーズドライ。お粥はどう?」
「いいね。ついでに、鍋物しようか。家から送ってきた野菜があるべさ」
キッチンに、タエの実家とケイの実家から届いた段ボールの箱がある。中に乾物や野菜が入っている。
「そしたら、朝から、一杯、やっか?」
「そりゃあ、いい!今日は休みだ!朝酒の後は、朝寝だべさ」
二人はあっという間にふとんから出た。