第33話 燃える空

文字数 1,433文字



 ミノタウルスに勝った。
 僕らの実力にしては、がんばったほうだと思う。
 でも、犠牲もあった。
 早く、ぽよちゃんを蘇生させないと。

「ほな。早よ次の街に行かんとな。こっから一番近い街って、どこやねん?」
「わかりません。僕もまだこの抜け道のさきに行ってみたことはないので」
「おれもこっちの方面に商売に来るのは初めてやしなぁ。魔法の地図も真っ白なままや」

 魔法の地図か。
 移動したことのある部分だけ色がついて描かれていくやつだね。

 僕らはミノタウルスが起きてくる前に、地下道から脱出した。出口をぬけると、背後で扉が自動で閉まる。

 夜が明けていた。
 東の空が茜色に染まっている。
 いや、違う。明け染める暁の空の薄桃色と、その毒々しい赤は明確に異なっていた。

 炎だ。そして、たちのぼる黒煙。
 蘭さんの白皙(はくせき)が瞬時にこわばる。

「シルキー城だ。シルキー城が燃えている」

 たしかに、あれはシルキー城の方角だ。真っ赤に焼けただれたような不吉な色合いに、背筋がゾクリとする。

「父上、母上……」
「大丈夫だよ。ワレスさんがきっと助けてくれてるよ。みんなでお城から逃げだしたはずだ」
「そう……ですね」

 蘭さんが不安になるのもムリはない。
 あの感じだと、お城は全焼だ。
 ああは言ってみたものの、ほんとに王様たちは無事なんだろうか?


 *

「ロラン。かーくん。行こか? あっちのほうに向かうと、街があるで」

 そう言って、三村くんが北をさした。

「なんで、そんなことわかるの?」
「商人のスキルで、街の匂いってやつや。人のいる場所がわかるんやで」
「ふうん」

 すると、蘭さんも言った。
「ボイクド国は北東です。国境の山脈を越えたさきにある。ちょうど僕らが目指す方角ですよ」
「じゃあ、そこに向かってみようよ」
「ええ」

 僕らはミノタウルス戦で疲れきっていたものの、ぽよちゃんのためにも急いで歩きだした。

「ねえ、ロラン。シャケ。二人の職業は勇者と商人でしょ? 僕はただの冒険者ってなってるんだけど、これって無職ってこと?」

 現実の僕はアパレルショップの店員だ。商人にはならないのかな?

「かーくん。まだ、マーダーの神殿に行ったことはないんですか?」
「ないよ」
「じゃあ、無職ですね。ミルキー城の城下町にはマーダーの神殿があったんですけど」
「マーダーの神殿……」
「職業を授けてくれる場所です。おもしろ半分で行ってみたら、勇者って職業があったので、なってみたんですよ。まさか、こんなことになるなんて……」
「えっ? 勇者って誰でもなれるの?」

 三村くんが首をふった。
「なれへん。なれへん。勇者は特殊な専門職や。誰でもなれるもんとちゃうねん。なれるヤツしか、なれへん」
「そうか。なれるってことが、すでに勇者の証なんだ」

 これでわかった。
 僕に足りないのは職業だ。プリーストならプリーストで、早くその職につかないと。魔法や職業固有スキルを覚えられない。

「マーダーの神殿。行ってみたいな」
「行けますよ」と、蘭さんがうけおった。
「ボイクド国との国境の山のなかにあるって話です。つまり、これから向かう山脈に神殿はあります」

 そうか。一刻も早く、そこへ行って、僕は蘇生魔法を覚える。
 そしたら、次に誰かが死んでしまったときには、僕自身の力で生き返らせることができるかもしれない。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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