第332話 始まりの街を見物しよ〜、と思ったら

文字数 1,373文字



 もちろん、わかってる。
 ミルキー城は悪のヤドリギに占領されてるし、城下町だって、その影響は受けてるだろう。平穏で安全な街であるわけがない。

 それはわかってるんだけど、やっぱり僕は帰ってきた始まりの街を前にして、ちょっぴり気がゆるんでしまっていた。たぶん、ワレスさんや蘭さんたちといっしょに王城へ直で行ってれば、緊張感を保ってたんだと思うけど。

「あっ、出口だ。地下室の扉だね」

 このトンネルは街なかのオバケ屋敷っぽい空き家の地下室に通じていた。
 トンネルをぬけると、荒れた民家のなかだ。

 以前は家屋のなかにモンスターは出なかった。が、今は竜兵士が出てくる。特訓したから、こっちもまったく敵じゃない。いっしょに出てくるブッキーが嬉しい。まれにレアな魔法のカードを落とす。

 とは言え、オバケ屋敷はそんなに広くない。宝箱を回収するために、くまなく歩いたけど、それでも十回までは戦闘しなかった。

「家のなかもダンジョンになってるけど、まさか城下町のなか全部がダンジョンじゃないよね?」
「どげだやら。行ってみぃしかないだない?」
「そうだね」

 建物のなかを馬車で歩ける不思議。
 馬車よりはだいぶちっちゃい猫車だけど。
 毎度のことだけど、家屋のなかを車ひいて歩いてると、悪いことしてる気分になるよね。

 僕らは玄関のドアをそっとひらいた。
 すきまから外をながめる。
 もしや街路にドラゴンがウジャウジャいるんじゃないかな、なんて考えた。シルキー城のときみたいに、ものすごく強い敵がいたらどうしようかと。

 でも、のぞいてみたかぎりじゃ、そんなふうには見えない。
 街の風景は以前と変わらない。
 どこにでもある中世ヨーロッパもどき。
 街外れだから人影は少ないけど、決して無人ではないし、ふつうに人々が暮らしているようだ。

「大丈夫そうだね」
「うん。出てみぃか」

 道行く人がいないすきに、僕らはオバケ屋敷からすべりだした。
 ぽよちゃんとケロちゃんも前衛として外に出てたけど、街の人に怪しまれると困るので、猫車のなかに入ってもらった。僕、アンドーくん、イケノくんという人間だけで猫車の外を守る。

「誰も見てないね。よし」

 家屋のなかから車が出てくるという奇妙な現場を目撃されることはなかった。
 無事、城下町潜入だ。
 よしよし。これで街なかを見物できるぞぉ〜。
 夕方までには王城に行かないとだけど、まずは旅の疲れをいやすために軽食でも食べて、ちょっとだけ都会を楽しもう。

 僕らはガラガラと猫車をつれて、街を歩く。
 やがて、商店街にやってきた。
 見覚えのある店がある。
 ネズミの国の売店みたいな店構えは、この街の武器屋だ。僕が木刀をドロボーしてしまった店である。

 ああ、やっとこれで心残りをなくせるよ。木刀代金、払ってしまおう。
 たかだか五十円だもんね。
 今となっては安いもの。へへへ。

 僕は意気揚々と武器屋に入る。

「こんにちは〜。木刀のお金、払いに来ました!」

 すると、あのときのお姉さんがカウンターのなかにいた。
 僕を見た瞬間、キランとお姉さんの目が光る。
 むっ、なんかイヤな予感がするんですけど?

 お姉さんは両手を口元にあて、あのときと同じポーズをとる。

 えっ? ちょっと、やめてよ?
 ウソだよね?
 お金持ってきたのに?

 そして、叫ぶ。

「ドーローボーーッ!」

 ああ……やっぱり。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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