第291話 トンネル、暗い……
文字数 1,157文字
川ぞいに歩いていくと、そのうち山のふもとに出た。
山すそが河岸にせりだして、川幅がせまくなってる。その部分にトンネルの入口があった。古びて、くずれかけた壁。穴をふさぐように木の根や
ゾンビとか出ないよね?
「い、行こう……か?」
「行きましょう!」
蘭さんは、すっかりやる気になってしまった。
すだれのような草木をはねのけて、薄暗いトンネルのなかへと入っていく。
そのとたん、ぼーっと人の顔が浮かびあがったので、僕はとびあがった。
「ギャー! 出たー! 来るなよ。オバケ。オバケ。オバカー!」
「かーくん、最後だけ間違ってる」
「えっ? そう?」
「おバカって言ってた」
「あれ? 変だなぁ」
「かーくんは肝が細いけんねぇ」
あはは、ははは、ふふふと笑う僕たちの前に、顔が近づいてくる。
「だから来るなよぉー! オバケー!」
「オバケじゃありません!」と、顔が不平たっぷりに自己申告してくる。
こんな場所でオバケじゃなかったら、なんだっていうんだ?
「オバケがオバケじゃないって言った……顔だけオバケのくせに」
「オバケじゃありません! 顔だけじゃないですよ! ちゃんと体もあります。ほら、よく見て!」
しょうがなく、チロリと見ると、あっ、体あった。なんだ。黒いローブ着てるから、暗がりにとけこんでただけか。反省。反省。
「えーと、あなたは?」
「デシミルと申します」
よく見ると、まだ十五、六歳のようだ。少年なのに黒髪を七三分けにして、やけにきまじめ。銀行員の見習いなのか?
「えーと、デシミルさん。なんで、こんなところに?」
「じつは私の師匠がそうとうに唯我独尊の人でして、他人の制止も聞かず、どうしてもウールリカへ行くんだと言って村をとびだしてしまいまして。関所は通してもらえなかったので、ここまで来たんですが……ああ、どうしよう。どうしよう。このトンネルの奥まで行ったところで魔物に襲われてしまいまして。ああ、ほんとにどうしよう。師匠が魔物に食べられてないかなぁ? どなたか強いお人が助けに行ってくれないかなぁ?」
なんか後半、異様に棒読みになった。
ほんとに師匠を心配してるんだろうか? てか、魔物に襲われたとき、師匠を残して逃げだしたんだよね?
一見、きまじめそうだけど、意外と腹黒いのかもしれない。
「……師匠って、織物名人のオンドリヤさんですか?」
「ああ、師匠をご存じなんですね? では、師匠を助けに行ってもらえますか?」
「まあ、助けには行くけど」
「じゃあ、よろしくお願いします! 私はこのトンネルの外で待ってますので」
ちゃっかりしてるなぁ。
しょうがない。行くか。
もともと、オンドリヤさんを探してたんだし。
魔物に襲われたって話だけど、大丈夫なのか?
無事でいてくれたらいいんだけど……。