第146話 カギを手に入れよう
文字数 1,952文字
ベチッ、ベチッ、ベチッ——
竜兵士の足音はそんな感じ。
ヤツらは靴、はいてないからね。
ウロコのある大きな足が敷石をふむ音だ。
ドキドキしたけど、それは僕らの牢からはかなり遠い入口近くで止まった。
「出ろ」と言って、鉄格子の扉をあける音がする。
どうやら牢屋のなかから何人かがつれだされたようだ。
やっぱり、ずっと、このなかに閉じこめているわけじゃない。少人数ずつ牢から出して、エサだか実験だかに使ってるんだ。
となると、ナッツのお母さんは、たぶんもう……。
でも、悲しんでいるヒマはないぞ。
こうなると一刻も早く逃げださないと、僕らも食われてしまう。
ここから出ても、あの妙な魔法空間のトンネルは通れないけど、地面がどこかに続いていれば、旅をしていくことはできる。こっちには地図もあるし。
竜兵士が囚人をつれていく足音が遠ざかる。そのうち、ギイッ、バタンと扉を閉ざす音がした。
それを見計らって、アンドーくんが近寄ってくる。
「アンドーくん。どうにかして、牢屋のカギが手に入らないかな?」
「うん。探してみぃわ。ちょっと待っちょって。わが一人で行ってみぃけん」
ぽよちゃんとたまりんを残して、アンドーくんは去っていく。
頼んだよ。アンドーくん。
五分後——
「戻ったよ。今、あけぇね」
は、速ッ!
アンドーくんの暗躍度上昇率が止まらない。いいなぁ。僕も忍び足と隠れ身、欲しいなぁ。
アンドーくんがポケットからカギをとりだした。モンスターの牙をむいた顔が持ち手のところに模様になってる。
「はい。開いたよ。これ、かーくんに預けちょくよ?」
「ありがとう」
テロップが流れる。
かーくんは万能のカギ(鉄格子)を手に入れた!
これはっ、イベントアイテムじゃないか。これで世界中にある鉄格子のカギをあけられるのかぁ。
シルキー城のなかにもあったっけ。
ともかく、逃げだそう。
僕はナッツをゆりおこした。
さすがに子どもを一人で残していくわけにはいかないしね。
「ナッツ。ナッツ。ここから逃げるよ」
「えっ? 逃げる? どうやって?」
「ほら。カギも開いたし。モンスターと出会っても、僕らが守るから」
「う、うん……」
僕らはそっと牢屋をぬけだすのだった。
*
牢屋のなかには、たくさんの人が捕まってる。
でも、ごめん。今はみんなを助けるだけのゆとりはないんだ。
五十人以上の人たちをつれて、ゾロゾロ歩いてれば、必ずモンスターに見つかる。だからって牢屋から出たあとは自力で逃げてくださいって言っても、それは不可能だろう。
心が痛んだけど、僕は彼らを起こさないように足音を殺して、ろうかを歩いていった。
いつか……いつか必ず、この人たちもみんな助けるぞ。
この場所がどこかわかってさえいれば、軍隊をさしむけて、救出に来ることはできる。
まずは僕らがその知らせを、ギルドかワレスさんに届けないと。
ナッツは牢のなかを一つずつのぞいていたけど、お母さんはいないようだった。ガッカリしてる。
ヒタヒタと歩いていくと、地上につながる階段がある。その手前に扉があって、見張りの竜兵士がいる。ただし、そいつは居眠りしていた。
「隠れ身はずっと使うと一定時間、使えんようになぁけん、あと三十分は使えんわ」
「それでさっきから使ってないんだ」
「うん。三時間使うと三十分、使えんようになる」
じゃあ、しょうがないな。
なんとかして、あの竜兵士を起こさないようにして、ぬけださないとね。
そろり。グーグー。そろり。グーグー。
そうっと。そうっとね。
グー。グゴー。グギギ……。
わあっ。歯ぎしりするなよ。よけい怖い。
僕を先頭にして、ぬき足さし足、忍び足。当然のことながら、この忍び足は文字通りの意味だ。アンドーくんのスキルではない。
ようやく、竜兵士の前をつっきった。
僕は慎重に手を伸ばして、鉄の扉に手をかける。ゆっくりとドアノブをまわす。
グーグー。グゴゴ……。
キッ。キキキ——
わッ。きしむんだ。
頼むから起きないでくれ。
グーグー。グーギリギリ。
キキキ。キィ……。
グゴッ?
あっ……。
グゴゴ?
「……ああ、やべェ。やべェ。寝ちまってた。バレたらグレート所長に首を切られちまうところだ——ん? なんだ、おまえら?」
ああっ、見つかった!
竜兵士が現れた!——と、いつものようにテロップが流れていく。
そうか。竜兵士は野生じゃないんだ。魔王軍に属したモンスターは野生とは言えないんだね。納得。
あっ、それより戦わないと。