第7話 甲子園の風

文字数 503文字

 晴海久遠は見事に立ち直った。
 兄・玲音は右足の踵を示すことでフォームの修正を促したのだ。
 久遠はマウンドの傾斜に気をとられるあまり、リリースの際、軸足である右足の踵の
離れが早くなって体軸がぶれていた。
 軸足の粘りが速球にも変化球にも強さを生む。
 それは、幼いころから兄に教え込まれてきたことだった。

 兄の無言のアドバイス一発で弟は立ち直り、凪浜相手に三振の山を築いてゆく。
 凪浜が得点できたのは序盤の3回まで。
 4回の表以降はゼロ行進がつづく。
 対照的にじわじわと加点を積み重ねてゆくのは南星だ。
 3回から8回まで1点ずつ着実に得点して、気づけば7−6のスコアになってしまっている。
「やっぱり、まっくら旅館のジンクスは本物かも……」
 鳥沢が不安げにつぶやいた瞬間、あっさりと9回表の攻撃は終わってしまった。

 9回裏。
 南星の攻撃。
 背中に肉薄してきている状態だが、風巻に悲壮感はない。
 人差し指の腹を唾で湿らせて天に向ける。
 甲子園特有の浜風はライトからレフトに流れている。
「よっしゃ、読めた!」
 風巻の瞳がかがやく。
 ここにきて風巻頼我はようやくつかんだ。
 甲子園の風を。
 


       第8話につづく
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