第27話 突入(1) Rush in

文字数 1,811文字

 古城の前に到着した。
 前回と同じだ。馬車から降りるや否や、すぐにカミーラが、古城の外へとやってくる。
「罠です。近寄るとやられます。お気をつけて」ゲーテが忠告する。
「やられるのはお前たちだけだ」リンリンの目はすでに殺気立っている。獲物を見つけた狩人のようだ。
「あのカミーラは幻想だな」エムボマは黒豹のように、背中をしなやかにたわめる。ヤマナカからの指示待ちだ。
 ヤマナカはマントの中から、一羽のフクロウを取り出した。
「鳴け。夜の賢者。幻想を、闇へと帰せ」
 ホー。
 ホー。
 あたり一面に、ふくろうの鳴き声が響き渡る。
 カミーラの位置が、十メートルほど後方にズレた。城の前は、何もない雪原だったが、今では落とし穴が無数に見える。このまま進んでいたら、確実に穴に落ちていた。
「スカラー」言うよりも早く、カトゥーが、カミーラに向かって飛び出していく。
 腰には、小さな鳥籠をぶら下げている。フクロウの鳴く声が小さく聞こえる。FDF『鳴き声籠』。声を保存しておくことしかできないファンタジーだ。
「まったく」スカラーが後に続く。
「俺がFを使用したんだぞ! 先に行くなんて、ずりいじゃねぇか!」エムボマを先頭にして、ヤマナカとアンリーも追っていく。
「私の出番がないねぇ」リンリンは、みんなからかなり遅れて、ゆっくり古城へと足を進めていった。
 追いかけられているカミーラは、何度も幻術をかけようとしている。だが、全く能力が発動できない。
 この世の夢は、全て現実に引き戻される。
 ヤマナカのFDS2『オウルキャンセル』が発動している間は、誰一人として、ファンタジーやアルカディアンの能力を使用することができないのだ。
 こうなると、後は単なる追いかけっこだ。鍛えに鍛えているダビデ王の騎士団にとって、カミーラを捕まえることは難しくない。
 後少し。
 だが、邪魔が入る。
 カトゥーは、間一髪で相手の銃撃をかわした。
ーー誰だ?
 知らない老人だ。なおも撃ってこようとする。
「先、行くぜ」スカラーが、カトゥーを追い越す。
 と、またもや前方から銃弾。
 知らない若者だ。
 スカラーも柱の陰に隠れた。
ーーいつの間に、こんなにも仲間を引き入れたのだろう。
 だが、考えている時間はない。とりあえず今は、戦わなくてはならない。戦闘レベルの差は明らか。だが、手加減をしてはいけない。ここは戦場だ。余裕を見せた瞬間、別の場所から殺されることもある。
 ヤマナカたちは、立ち止まるカトゥーを尻目に、さらに奥へと駆け抜けていった。
 ゾロゾロゾロゾロ。
 次々と、カミーラの仲間たちが奥からやってくる。数は二十体以上。
 隠れている柱からうかつに顔を出せば、次の瞬間には銃撃が始まる。
ーー吸血鬼の技? 隷属化か?
 吸血鬼に血を吸われた者は、吸血鬼になって従うしかなくなるという伝説がある。アルカディアンは、誰かの空想が形になった生物だ。可能性はある。しかし、吸血鬼になったにしては、動きの精度が低い。
「ホムンクルスじゃな」ゲーテの後ろには、いつのまにかリンリンがいた。
「まぁ、見ておれ」背中に儀式用の剣をさし、黄色い道着で完全な戦闘モードになっているリンリンは、驚くほど無用心に、ホムンクルスへと向かっていった。
 銃弾を避け、先頭の二人に剣を一振り。
 ホムンクルスたちの額には、黄色い札が貼られた。
 チリン、チリン。
 リンリンは、すぐに近くの柱に隠れ、鈴を鳴らし、ホムンクルスに命令をする。
「行け! キョンシー。奥にいる敵の壁になれ!」
 キョンシーとなったホムンクルスは、回れ右をして、敵に向かって飛び跳ねていった。キョンシーとは、動く死体のことである。死体操作のお札を貼って、死んだホムンクルスを操ったのだ。これは、タオイストであるリンリンの霊術だ。お札を使用して様々な効果をもたらすことができる。
 この術は、お札を作れる筆と紙がFであり、筆と紙を使用して事前に製作したお札自体はFではない。お札は、霊術が使えれば、錬金術師でなくても使用できる。つまり、オウルキャンセルの制約を受けない。この、FD同士の相性の良さから、リンリンはヤマナカを副隊長にしているのだ。
 一行は、キョンシーを使用して奥へと進み、倒したホムンクルスをさらにキョンシー化させ、徐々にカミーラを追い詰めていく。
ーー幻想さえなくなれば。
 ゲーテは、一番後ろから歩いていくスカラーと共に、古城の奥へと進んでいった。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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