第26話 馬車 Carriage
文字数 1,576文字
馬車での行程は、たっぷり十時間以上ある。
話を聞くうち、ゲーテは徐々に、KOKのことが分かるようになってきた。
唯一の女性は中国人で、今回の討伐隊の隊長だ。リンリンという。タオイストという異名で知られているSランク錬金術師だ。
この名前は、本名ではない。KOKは本名を明かさない。全員がコードネームで呼ばれている。高名な錬金術師も多いので、襲撃されることを避けているのだろう。全員が、サングラスか、ゴーグルか、仮面か、覆面か、濃い化粧をしている。
服装はまちまちだが、全員がまとっているマントの襟や袖に、『KOK』と『V』の徽章がついている。外見からでも、KOKだと判別できる。
フクロウの被り物をしているアジア人は、ヤマナカという。この隊の副隊長だ。プロフェッサーという異名を持っている。礼儀正しく、元気で明るい。だが、どこか二面性を感じる。ゲーテは、まるで自分のようだと思った。
彼の後ろには、金髪の長身青年が寄り添っている。覆面をかぶっているが、白人だということは分かる。ヤマナカの愛弟子らしい。名前はわからない。「名乗るほどの名前ではない」というのは本人の談だ。ドクター・プリンスの異名を持つ。
仮面を斜めに頭につけ、顔を丸出しにして、キョロキョロしながら動き回る無邪気な日本の青年は、カトゥーだ。インポスターという異名を持つ。ヤマナカと同じく、副隊長らしい。だが、威厳もなく、強そうにも見えない。自由奔放なので、おそらくファンタジスタだろう。
隣では常に、サングラスをかけたロシア人が、彼の動向に目を光らせている。スカラーと呼ばれている。学者という意味ではない。ロシア語で岩を表すそうだ。ゴツい見た目通りだ。
ゴーグルを首にかけた、筋肉隆々な坊主の黒人も座っている。エムボマという名前らしい。明らかに強そうだ。座っているだけなのに、オーラが漲っている。
彼ら六人は、それぞれの時間を馬車の中で過ごしていた。だが、ゲーテがカミーラについて話しだした瞬間、全員の顔つきが真剣になる。
全ての情報を聞いたリンリンは、ヤマナカとカトゥーに意見を求めた。
「お主らは、どのように分析した?」
「落とし穴に気づかなかった。コウモリになって飛んでった。引っ張ったら何も掴んでなかった。全部ができるってこたぁ、そりゃ多分、幻想系のFだね」カトゥーは嬉しそうだ。
「だったら俺が、オウルキャンセルを使用する。本体を見つけ次第突撃。身柄を確保しよう」ヤマナカが具体的に作戦を決める。
「よし。それでいくぞ。アンリーとエムボマがヤマナカと共に右翼。カトゥーとスカラーが私と共に左翼から攻める。もしもオウルの鳴き声が聞こえなくなったら、一旦撤退じゃ」リンリンの言葉に、全員が了解した。
「これだけですか?」ゲーテは拍子抜けした。
ーーあれほどカミーラは強いと念を押したのに、こんなに簡単な作戦で進むとは。
自分が最強だと思っていた一団が瞬殺されているのだ。ゲーテは、ニーチェの最後の顔を思い浮かべた。不安が顔に出ていたのだろう。
リンリンは、ゲーテの背中を叩いた。
「大丈夫じゃ。私たちは、数々のフルカディアンやFを保護しておる。今回のカミーラは、他の吸血鬼タイプと比べて、そこまでの強さはない」
「うん。馬車の馬が食べられて中から出てくるとか、目から光線を発するとかがないもんね」
「そりゃDIOじゃねーか。カーッカッカッカッカ」嘘か冗談か分からない内輪話を、黄色人同士が笑って話している。明らかに余裕そうだ。
ーーそんなに強いのか。まさか、負けフラグじゃないだろうな。
ダビデ王の騎士団の噂は聞いている。だが、ゲーテは、彼らの強さに疑問を抱いて仕方がなかった。
ーーいざという時のために、確実に逃げられる準備だけはしておこう。
ゲーテは、絶対に死なないという覚悟だけは固めておいた。
話を聞くうち、ゲーテは徐々に、KOKのことが分かるようになってきた。
唯一の女性は中国人で、今回の討伐隊の隊長だ。リンリンという。タオイストという異名で知られているSランク錬金術師だ。
この名前は、本名ではない。KOKは本名を明かさない。全員がコードネームで呼ばれている。高名な錬金術師も多いので、襲撃されることを避けているのだろう。全員が、サングラスか、ゴーグルか、仮面か、覆面か、濃い化粧をしている。
服装はまちまちだが、全員がまとっているマントの襟や袖に、『KOK』と『V』の徽章がついている。外見からでも、KOKだと判別できる。
フクロウの被り物をしているアジア人は、ヤマナカという。この隊の副隊長だ。プロフェッサーという異名を持っている。礼儀正しく、元気で明るい。だが、どこか二面性を感じる。ゲーテは、まるで自分のようだと思った。
彼の後ろには、金髪の長身青年が寄り添っている。覆面をかぶっているが、白人だということは分かる。ヤマナカの愛弟子らしい。名前はわからない。「名乗るほどの名前ではない」というのは本人の談だ。ドクター・プリンスの異名を持つ。
仮面を斜めに頭につけ、顔を丸出しにして、キョロキョロしながら動き回る無邪気な日本の青年は、カトゥーだ。インポスターという異名を持つ。ヤマナカと同じく、副隊長らしい。だが、威厳もなく、強そうにも見えない。自由奔放なので、おそらくファンタジスタだろう。
隣では常に、サングラスをかけたロシア人が、彼の動向に目を光らせている。スカラーと呼ばれている。学者という意味ではない。ロシア語で岩を表すそうだ。ゴツい見た目通りだ。
ゴーグルを首にかけた、筋肉隆々な坊主の黒人も座っている。エムボマという名前らしい。明らかに強そうだ。座っているだけなのに、オーラが漲っている。
彼ら六人は、それぞれの時間を馬車の中で過ごしていた。だが、ゲーテがカミーラについて話しだした瞬間、全員の顔つきが真剣になる。
全ての情報を聞いたリンリンは、ヤマナカとカトゥーに意見を求めた。
「お主らは、どのように分析した?」
「落とし穴に気づかなかった。コウモリになって飛んでった。引っ張ったら何も掴んでなかった。全部ができるってこたぁ、そりゃ多分、幻想系のFだね」カトゥーは嬉しそうだ。
「だったら俺が、オウルキャンセルを使用する。本体を見つけ次第突撃。身柄を確保しよう」ヤマナカが具体的に作戦を決める。
「よし。それでいくぞ。アンリーとエムボマがヤマナカと共に右翼。カトゥーとスカラーが私と共に左翼から攻める。もしもオウルの鳴き声が聞こえなくなったら、一旦撤退じゃ」リンリンの言葉に、全員が了解した。
「これだけですか?」ゲーテは拍子抜けした。
ーーあれほどカミーラは強いと念を押したのに、こんなに簡単な作戦で進むとは。
自分が最強だと思っていた一団が瞬殺されているのだ。ゲーテは、ニーチェの最後の顔を思い浮かべた。不安が顔に出ていたのだろう。
リンリンは、ゲーテの背中を叩いた。
「大丈夫じゃ。私たちは、数々のフルカディアンやFを保護しておる。今回のカミーラは、他の吸血鬼タイプと比べて、そこまでの強さはない」
「うん。馬車の馬が食べられて中から出てくるとか、目から光線を発するとかがないもんね」
「そりゃDIOじゃねーか。カーッカッカッカッカ」嘘か冗談か分からない内輪話を、黄色人同士が笑って話している。明らかに余裕そうだ。
ーーそんなに強いのか。まさか、負けフラグじゃないだろうな。
ダビデ王の騎士団の噂は聞いている。だが、ゲーテは、彼らの強さに疑問を抱いて仕方がなかった。
ーーいざという時のために、確実に逃げられる準備だけはしておこう。
ゲーテは、絶対に死なないという覚悟だけは固めておいた。