30. そう言えば・・・
文字数 2,061文字
「あんな血塗られた歴史の上に築かれていったんじゃあ、当時の世襲 君主が長続きしないわけだ。」
帰路で、ギルが言いだした。
エミリオが延々と聞かされていた白亜の町の歴史を帰りの話題にしながらも、二人は朝出かけた時とは違い、早足 で歩いていた。少し悠長に過ごしすぎたようだ。
「それで、町の子供を火炙りに・・・。」
エミリオは伏し目になり、それを悲し気に口にした。
「なんて腹いせ考えやがるんだ。カイルの先祖を恨んでいるのは、そういうわけか。」
「レッドが襲われた時、すぐに逃げ出したのは、カイルを見て驚いたんだろうね。」
「儀式で俺たちに気付いた時より、はっきり見られたろうからな。驚くほど顔が似てたってことだよな? ディオネスが、あんな貫禄 のない可愛らしい少年だったとは、さっきの話からは思えないが。」
「それだけでは無いんじゃないかな。カイルには強い霊能力と、精神力がある。そういった彼の性質が、彼女が出会ったディオネスとぴったり一致したんじゃないかな。彼女は強力な霊能力者だったそうだから、そういったものも感じ取ることができたのだと思う。」
「なるほど。なら、そのかつてのアルタクティスの中には、お前の前世はまだいなかったんだろうな。」
「なぜ。」
「お前は神々の中心で、救世主だと言われている男だろう? お前の前世の者は、ディオネスよりも能力が上で、きっと今のお前にもある何か特殊な力を持っていたはずだ。カイルの中のディオネスに気づいて、それに気づかないのはおかしいだろう。」
その自覚がまだ持てないでいるエミリオは、ただ苦笑を返した。
「とにかく、何かが原因でその封印が解かれたのだろう。」
「お宝狙いの向こう見ずな探検家が一番怪しい。」
「古い伝説だから、どこでどう歪曲 しているとも限らないが。」
「解決の有力な手がかりにはなった。」
そこで二人は声をそろえる。
「ラグナザウロンの銀の矢・・・か。」
宿に帰り着いたエミリオとギルは、さっそく、老婆から聞くことができた情報を仲間たちに話した。湖に建っている廃屋について、それにまつわる悲話を。
すると、カイルが真っ先に反応した。
「そう言えば・・・あのへんで気分が悪くなった。すごく・・・。」
「なんだって。」と、レッド。
「ほら着いたその日、僕、薬草を摘 みに一人で奥へ行ったでしょ?いつの間にか湖のすぐそばにいて・・・そこから、塔 が見えてたっけ・・・そんな小島の中に。」
「今頃、何言ってんだ。」と、リューイ。
「それにしても、なんていかれた時代だ。人間の考えることじゃない。」
話の特に猟奇的な部分を聞いた時、レッドはサッと鳥肌が立つ思いがした。
「今以上に血生臭い時代だ。」とギルもまた顔をしかめ、そして言った。「封印っていう選択肢ができたな。向こうも呪術で対抗してくるだろうから、しかるべき対処の前に直接対決になると思うぞ。だが、お前の偉大なるご先祖様だって封印を選んでるってことは、きっと、それだけ相手は強力だってことだろう。再び封印する方向で動くか?」
「だよね・・・。」
しかしそれでは、いつかまた同じ惨劇を繰り返すかもしれない・・・そんな不安が残るものの、勝てないのでは仕方がない。カイルはうなずいた。
「なら、銀の矢を手に入れることが先だな。隠したり処分した可能性もあるが、自分を封印したものに触れるなんて抵抗があるだろうから、そのまま放置されていることを願って、あのお婆さんの話が確かならば、まだ洞窟の・・・。」
自分のその言葉に、今さらながら、ギルはふと引っ掛かるものを感じた。
「あのお婆さん・・・通路って言ってたか?」
ギルは、そうエミリオに確認。
「ああ、洞窟から入ることのできると・・・。」
そしてエミリオは声にせず付け足した。さらには財宝が眠っている・・・と。
そのあと深刻な顔で黙り込んだ、エミリオとギル。二人のそんな様子を、特に気にする者はいなかった。それよりも話を進めて、どう立ち向かうかを考えなければならない。
その結果、例の離宮へは男だけで行く。シャナイアは残ることになった。本来なら、まだ年若く、ほかの男たちに比べれば体力のないカイルも置いて行きたいところだが、この少年がいなくては話にならない。もし化け物に剣では歯が立たないようなら、カイルの呪術に頼るしかないからだ。こういった場合に、カイルのその能力は必要不可欠となるだろう。彼は唯一、呪術を駆使 する少年だ。普段はどことなく抜けてはいても、医術と呪術においては違うと、もう仲間の誰もが認めている。
そして、ギル。矢といえば弓。当然それを、しかも常識を超えた的中率で使いこなせるのは、彼をおいてほかにはいない。弓は、宿の居間に飾られてあるのを見ていた。エミリオが聞いた話では、主人が若い頃、この町の老舗 で手に入れたという。ギルなどは興味があって勝手に品定 めをしていたが、さすがに職人の町の老舗で作られただけはある高品質だった。それを何とか借りられるだろう。
種類は長弓 。ちょうど当時からあるのは、このタイプだけだ。
帰路で、ギルが言いだした。
エミリオが延々と聞かされていた白亜の町の歴史を帰りの話題にしながらも、二人は朝出かけた時とは違い、
「それで、町の子供を火炙りに・・・。」
エミリオは伏し目になり、それを悲し気に口にした。
「なんて腹いせ考えやがるんだ。カイルの先祖を恨んでいるのは、そういうわけか。」
「レッドが襲われた時、すぐに逃げ出したのは、カイルを見て驚いたんだろうね。」
「儀式で俺たちに気付いた時より、はっきり見られたろうからな。驚くほど顔が似てたってことだよな? ディオネスが、あんな
「それだけでは無いんじゃないかな。カイルには強い霊能力と、精神力がある。そういった彼の性質が、彼女が出会ったディオネスとぴったり一致したんじゃないかな。彼女は強力な霊能力者だったそうだから、そういったものも感じ取ることができたのだと思う。」
「なるほど。なら、そのかつてのアルタクティスの中には、お前の前世はまだいなかったんだろうな。」
「なぜ。」
「お前は神々の中心で、救世主だと言われている男だろう? お前の前世の者は、ディオネスよりも能力が上で、きっと今のお前にもある何か特殊な力を持っていたはずだ。カイルの中のディオネスに気づいて、それに気づかないのはおかしいだろう。」
その自覚がまだ持てないでいるエミリオは、ただ苦笑を返した。
「とにかく、何かが原因でその封印が解かれたのだろう。」
「お宝狙いの向こう見ずな探検家が一番怪しい。」
「古い伝説だから、どこでどう
「解決の有力な手がかりにはなった。」
そこで二人は声をそろえる。
「ラグナザウロンの銀の矢・・・か。」
宿に帰り着いたエミリオとギルは、さっそく、老婆から聞くことができた情報を仲間たちに話した。湖に建っている廃屋について、それにまつわる悲話を。
すると、カイルが真っ先に反応した。
「そう言えば・・・あのへんで気分が悪くなった。すごく・・・。」
「なんだって。」と、レッド。
「ほら着いたその日、僕、薬草を
「今頃、何言ってんだ。」と、リューイ。
「それにしても、なんていかれた時代だ。人間の考えることじゃない。」
話の特に猟奇的な部分を聞いた時、レッドはサッと鳥肌が立つ思いがした。
「今以上に血生臭い時代だ。」とギルもまた顔をしかめ、そして言った。「封印っていう選択肢ができたな。向こうも呪術で対抗してくるだろうから、しかるべき対処の前に直接対決になると思うぞ。だが、お前の偉大なるご先祖様だって封印を選んでるってことは、きっと、それだけ相手は強力だってことだろう。再び封印する方向で動くか?」
「だよね・・・。」
しかしそれでは、いつかまた同じ惨劇を繰り返すかもしれない・・・そんな不安が残るものの、勝てないのでは仕方がない。カイルはうなずいた。
「なら、銀の矢を手に入れることが先だな。隠したり処分した可能性もあるが、自分を封印したものに触れるなんて抵抗があるだろうから、そのまま放置されていることを願って、あのお婆さんの話が確かならば、まだ洞窟の・・・。」
自分のその言葉に、今さらながら、ギルはふと引っ掛かるものを感じた。
「あのお婆さん・・・通路って言ってたか?」
ギルは、そうエミリオに確認。
「ああ、洞窟から入ることのできると・・・。」
そしてエミリオは声にせず付け足した。さらには財宝が眠っている・・・と。
そのあと深刻な顔で黙り込んだ、エミリオとギル。二人のそんな様子を、特に気にする者はいなかった。それよりも話を進めて、どう立ち向かうかを考えなければならない。
その結果、例の離宮へは男だけで行く。シャナイアは残ることになった。本来なら、まだ年若く、ほかの男たちに比べれば体力のないカイルも置いて行きたいところだが、この少年がいなくては話にならない。もし化け物に剣では歯が立たないようなら、カイルの呪術に頼るしかないからだ。こういった場合に、カイルのその能力は必要不可欠となるだろう。彼は唯一、呪術を
そして、ギル。矢といえば弓。当然それを、しかも常識を超えた的中率で使いこなせるのは、彼をおいてほかにはいない。弓は、宿の居間に飾られてあるのを見ていた。エミリオが聞いた話では、主人が若い頃、この町の
種類は