60. 脱出
文字数 2,442文字
ぞっとするような破壊音が立て続けに上がる。高価な調度品や壁掛け、華やかな天井画、それらが全て一緒くたとなって埋もれていく。
地震では、倒壊と共に恐れられるのが火。これがそうなら、家屋や店舗などから出火した火が燃え広がって、あの美しい白い街はそのうち地獄と化してしまう。だが異常に長時間続いているので、断層がずれ動くことによる地震だとも思えない。何か特別な力がここにだけ働いているような、
「地面が・・・崩落する。」
エミリオがつぶやいた。
「何て言った。」
ギルはぎょっとして聞き返した。その言葉にギルも気付いた。
「この下は、いや、恐らく島全体があの迷路だ。このままではそこも崩れる。この島から脱出しなければ。」
「だが、どこから出ればいいんだ。腰を
「いや、道が上手くつながっているとは限らない。そのうえ樹木などに邪魔されて通れない恐れもある。塔から湖へ飛び込もう。すぐ真下に水面が見えた。確実に湖へ出られる最短距離だ。」
「高さは。」
「少し勇気がいる。」
「・・・水深は?」
「大丈夫だ。下には小舟を通していたらしい水路があった。目を凝らして見たが、この小島の位置から考えても水深と障害物の心配はない。」
ギルはしばらく返事ができなかったが、やがて、「・・・信じるぞ?」と、言った。
「ただ・・・心配なのが一人いる。」
「ああ・・・いっそのこと放り込むか。」
恐ろしい音をたてて、頭の上から
行く手の三階の床、つまり今いる場所の天井は、
ある時、カイルは突然、心臓が止まったような顔をした。真上でとてつもない破壊音が聞こえたからだ。たちまち崩れたものと一緒に銅像が転がり落ちてきて、すぐ背後を突き抜けていった。罅割れた床では何の抵抗力もなく、まるで濡れた紙を突き破るかのように呆気なく底が抜けた。
「うわああっ!」
それはまたも、付き添うように隣を走っていたレッドにだが、彼はずっと前に目を向けたままで無言。その横顔は切迫感に追い詰められていて、いよいよ険しくなっていた。だが、カイルの手首をつかんだその手は、それからしばらく放れることはなかった。
下へ続く階段が見えた。一階が
滑るような勢いで
やがて、見覚えのある広大な回廊に出た。だがそこは、見覚えがあるとは言い難い様相を呈していた。柱から天井を支える
そしてとうとう、飾り円柱がぐらぐらと揺らぎだした。だが突進するしか道はない。すぐに次々と倒れてくるだろう。ここで
「抜けるぞ!」
エミリオが怒鳴った。彼は穏やかな口調の紳士で、めったに大声など出さない男だ。
周りの迫力に負けじと、みな疲労に打ち勝って加速した。
この驚異的な現象の
ついに、それら神々をのせた柱の数々が、大きく
ギルはヒヤリとして見上げた・・・きわどい。
「急げ !」
そして間一髪、倒壊する柱の真下をかいくぐった。全員、無事だ。そうして、ひとまず倒れてくるものが無い場所まで逃げきることができると、誰もが肩で息をしながら思わず振り返った。
その時。
壁に激突しながら倒れゆく円柱の数々が、ついさっき走り抜けてきた場所を完全にふさいで横たわった。
ここで初めて、背後の様相を目の当たりにした彼ら。その光景に唖然と立ちすくんだ。
当時はさぞ
息を呑んだ・・・この宮殿は
彼らは一面の
「行こう・・・。」
エミリオが静かに