第115話 表裏一体

文字数 1,560文字

「評議を続けましょう」

 ヨネ子ちゃんがパチンと手を叩いた。

「具体的に、何をするの?」
「簡単です。一連のこの出来事から、良かったことと悪かったこと、対立する二つの意見を一人ずつ列挙していくのです」

 赤と緑のモヒカンを揺らしながら、寺野さんが説明してくれた。

「実際に聞いてみれば分かりますよ。では私から述べましょうか――――まずは良い点から。この事件をきっかけに、壊滅させたと思われた過激派側一味が残っていたことが判明しました。そして悪い点。言わずもがな、落ち度のない地球人二人の命を危険にさらしました」

 この場にいる全員が、同様に述べていくようだ。寺野さんから時計回りに、エイリアン達が二つの意見を口にしていく。その度にテーブル上の、立体映像が流れていた位置に、要約された意見が一つ一つ文字となって空中に浮かび上がってくるのだった。まるで透明な書紀板でもあるかのように。そしてそれは、どの角度から見ても斜めにならず、文字が反転することもない、不思議な書紀板だ。私の目が映す文字は日本語だったけれど、もしかしたらエイリアン達には、各々違う文字が見えているのかも知れない。

「せっかくのマイム・マイム会合を中断させられたのは、正直残念だったわ」
「でもこういうイレギュラーなハプニングっていうのは、ワクワクするもんだよ」
「時間球が大量って聞いて、すごく期待しちゃった。結局一粒も採れなかったし、がっかりした」
「レプレプの宇宙船って、一度乗ってみたかったんだよね。だから、オイラは満足。踊り足りないけど、結果オーライだな」
「そうね。踊り明かした後の打ち上げも楽しみだったけど、こうやって地球人も交えた宴会ってのも良いものだわ」
「悠里ちゃんのテープ剥がし、とっても面白かった。余興の参考になったよ」

「悪かったこと……そりゃやっぱり、二人が治療を受けて眠っている間は、心配だったし嫌な気持ちになったよ。数時間前にイカタコ亭で一緒にご飯食べて、楽しかったなぁって思い出すと、余計に辛かった。楽しい思い出を思い返して悲しくなるのは、僕は本当に嫌だよ。良かったことは、この宇宙船のおかげで悠里ちゃんや秋月くんと一緒に過ごす経験が増えてることかな。お得な感じするよね。だってこの船の外では、まだ二人が湖に落ちてから、ほとんど時間は動いてないんだからさ」

 子供姿のエイリアン達の発言の後、ジョージくんがのんびりと述べた。そして自然と、皆の視線がその隣の八幡ちゃんへと移動していく。

「悠里ちゃんと一馬くんに、裏切りと失望の感情を抱かせたこと。怖い思いをさせたこと。それがこの出来事でボクが感じた、嫌な点です」

 強い口調でも、大きい声でもないが、パカパカ星人の言葉は部屋の中に響き渡った。

「一番の良かった点。それはお二人の感情がピッタリと寸分違わずに一致した、素晴らしい瞬間を見ることができたこと……ですかねぇ」

 八幡ちゃんは言葉を続ける途中で、「うふふ」と嬉しそうに破顔していた。そして、こんな風に締めくくったのだった。

「真の意味で心が通じ合う――――愛が一致する、分かち合える。これほど素晴らしい現象が、宇宙の中に他にあるでしょうか? ボクは常日頃こんな風に考えてるんです…………時間をも凌駕する至高のエネルギー、それは“()”なんじゃないかって。この星の人類は様々な感情を生み出し続けて、いつもそれらに振り回されているけれど、あふれる感情の根底にあるのは、愛ですから――――だからボクは地球から離れられない。どんな形で、どんな感情と混ざった愛が表出するのか観察したい。そして時が枯渇した世界の“愛”とは、どんな形をしてるのか……気になって仕方がないのです。たまに悠里ちゃんと一馬くんのような、ボクが大好きな愛のかたちを見つけることもできますしね」
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