第1話 親友と書いてライバルと読む

文字数 2,174文字

 私、源双葉(みなもとふたば)明菜(あきな)ちゃんこと影島(かげしま)明菜を嫌いになったのには、もちろん理由がある。
 元々は仲がよかったんだ。ちゃん付けで呼び合うほどだし、クラスの仲でも特に親しかった。趣味も合った。私達は二人とも、読書が好きで、書くのも好きだった。

 きっかけは多分よくあるパターンで、小学三年生のとき、初めての図書の時間。図書室で同じ本を選ぼうとした。
 今になって思い返すと、第一印象はよくなかった。むしろ最悪だったわ。私と明菜ちゃんは同じ本に手を伸ばし、気付いた私がちょっと手を引っ込めると、明菜ちゃんはそのまま本を書架から引っ張り出して、持って行ってしまった。無愛想で無遠慮で、いくら図書室とはいえ言葉のやり取りもなし。その後、仲よくなれたのが不思議なくらい。
 彼女は魅力的な文章を書く。間もなくそのことを知ったのは、読書感想文の宿題で特に優秀だとして、皆の前で発表されたから。本人は優秀と褒められたこと自体は嬉しくてもクラス全員の前で読まされるのは不本意だったみたい。だけども、明菜ちゃんの感想文は、みんなを魅了した。少なくとも私はそうだ。物語の世界に入り込んだような気分にさせられたのを覚えている。
 私はその授業の直後の休み時間、明菜ちゃんに話し掛けた。同じ本を読んでいたのに、注目する事柄の違いとかに驚いた。ちょっと違う物語のようにさえ感じられた。そのような意味のことを身振り手振りを交えて一生懸命話したら、最初は戸惑い顔だった明菜ちゃんが、いつの間にやら笑顔になっていた。
 私と彼女とが仲よくなったのはこのときから。明菜ちゃんは最初の出会いのこともちゃんと覚えていて、「あのときはごめんなさいね、どうしても早く読みたかったの」と謝ってくれた。これでわだかまりが一気に溶けてなくなり、私達はたいてい一緒にいるようになった。学校ではもちろんのこと、学校の外でも。
 二人とも読書のメインは小説で、好みのジャンルはそれぞれ違ったけれども、私も明菜ちゃんも好きなジャンルだけでなくまんべんなく読むタイプだったのもよかった。
 五年生になってお小遣いがアップした頃には、話題の新刊を買って競うように読んでいた。けどすぐに気付いた。二人して同じ本を買うのは非効率的だと。そこで発売予定の小説を前もって調べて、お互いが読みたいと思っている本についてはできるだけ共同購入することにした。
 当然ながら常に感想が一致することはなく、むしろ少なかったかもしれない。二人してファンタジー作品のイケメンキャラに「**様~っ」となる一方で、ヒロインに対して「箱入り娘だからって人任せ過ぎる!」と明菜ちゃんが文句を付けるのへ、「何でもかんでもできる箱入り娘っておかしいでしょ!」と反論したものだ。
 私が特に好きなのは推理小説で、あるトリックを褒め倒すと、明菜ちゃんはファンタジー好きのくせして「現実味がない」と切り捨てる。反対に、明菜ちゃんが感心したという推理の論法に穴を見付けて私が指摘すると、物凄く不機嫌になった。
 こんな風に意見をぶつけ合いつつも、全体としては仲よくやって来た。
 転機が訪れたのは小学六年生になったばかりの頃。クラスは五年生からの持ち上がりで変わらず、この一年もよろしくって感じだったんだけど、前年度の一月だったかな。冬休みの宿題だった読書感想文のうち優れた物を自治体のコンクールに学校が出していた。その結果が出て、何と私の感想文が金賞を獲ったというのだ。
 そういう一番になると言うことがほとんどなかった、ましてや学校の外でなんて正真正銘初めてだったから、私は有頂天になったかもしれない。
 明菜ちゃんも最初は凄いと言ってくれたんだけれども、内心では悔しかったんだと思う。あとで先生から聞いた話では、明菜ちゃんの感想文も同じコンクールに出し、いい線まで行ったんだけれども、文章が物語的で感想文というよりも小説めいたものになっていた点がマイナスされたみたい。そのことを先生、明菜ちゃんにも言ったという。
 それからしばらくして、明菜ちゃんの方から提案があった。
 小説投稿サイトに一緒に登録しようと言って来たのだ。
「双葉ちゃん、今も書いてるんでしょ?」
 私も明菜ちゃんも、小五の頃からぽつぽつと書くようになっていた。たまに見せ合って、お互いに読んだこともある。まあ、中身はどこかで見たような話で、それなりに面白く感じても、真似の域を出ていなかった。オリジナルの要素が多いほど、途中で筆が止まり、書けなくなることも多くなる。
「書いてるけど……大丈夫かなあ? 大人の人もいっぱいいるんだよね?」
「私が考えているのは唯ノベルといって大手の一つに数えられているとこ。他のサイトと比べたら登録者には私達みたいな小学生も多いって」
「うーん」
「参加者は他の参加者の作品を読んで、評価するの。評価が高いほど人気がある証拠で、サイト主催のコンテストで選ばれたり、他の出版社の人の目に留まったら紙の本になる可能性もあるって」
 それは確かに魅力だった。
 いきなり賞が取れるなんて当然思ってないけど、他の登録者が読んでくれて、だめなところを(やさしく)教えてくれるんだったらいいなと考え始めた。

 つづく

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