第5話 ちえこさんのキャベツ

文字数 1,365文字

 私は野菜が好きでして。しかも、大の「生」好き。サラダなんて三食OKです。社会人になりたての頃、会社の人たちと焼肉に行ったんですが、わたしが肉そっちのけで、あまりに「草」とか「葉っぱ」ばかり食べていたので、肉ばかり食べてた巨漢の先輩(♂)から「お坊さんみたいだね(笑)」なんて言われる始末。「やかましいわい!」という言葉をぐっと呑み込み、愛想笑いでやり過ごしたのは、もはやいい思い出です(遠い目)。

 それはさておき、10年ほど前のこと。縁あって宮城県の名取市に暮らしていたことがありました。そこで一生忘れられない「キャベツ」に出会ったんです。
 そのキャベツを作っていたのはお隣に住む「ちえこさん」というお婆さんでした。この方、生粋の農家ではありません。会社員として定年を迎え、それから趣味として独学で野菜作りを始めた方なんです。当時、恐らく70代前半だと思われます。お一人で暮らしてて、時折、お顔がそっくりな息子さんが様子を見に来るといった感じでした。キビキビ動き、頭もシャキッとしていて、元気なお婆さんでした。自宅敷地内にある小さな畑でいろいろと作物を育て、とてもありがたいことに、よそから来た私のことを気にかけてくれ、ときどき採れたての野菜をお裾分けしてくれたのでした。その中に、私に衝撃を与えたキャベツがあったんですね。
 
 そのキャベツ。第一印象はとにかく大きい!の一言でした。何でしょう……うまく例えられないんですが、新聞紙一枚では包めなかったことを覚えています。ただ、大きいからなぁ。お味は大味なのかな?なんて、今となって思えば完全に見くびっていたことが分かるんですが、正直、そう思って食べてみました。
 虫さんたちにとっても、美味しかったのでしょう、いろんな虫さんがくっついてました(笑)助けられる命たちは外の庭に放ち、私はキャベツをちぎり、軽く洗って、そのまんま口の中へ。そして一噛み、二噛み。

 Oh! 口の中が濃い~青汁風味に激変しちゃったよ!

 濃い。ひたすらに、味が濃いのです。しかも、エグみは皆無なんですねこれが。「ああ、キャベツってこういう味だったんだ」……と、初めて知ったような気がしました。そのあとマヨネーズや塩ドレッシングにとんかつソースなど、色々な調味料をかけて食べてみましたが、すべての味を余裕で包んでしまうんです。最後には私、カレーをかけて食べました。結果は、「ちえこさんのキャベツ」の圧勝でしたね。超えてくるんですよ、カレーを!そんなキャベツあるわけない。でも、確かにそこにあったんですねぇ。なんとも驚きでした。どこかで売ってるなら買ってでも食べたい!そう思わせる、私にとって極上のキャベツでした。
 いただいたキャベツは数日かけて、もちろん最後までいただきました。最終的には、塩をほんの少~し振って食べ、次に何もかけずに食べ……という「至福のルーティン」にたどり着いたのを覚えています。それ以来、あのキャベツを超えるものには出会っていません。これからも出会うことはないと思います。

 キャベツをいただいた翌日に、改めてのお礼かたがた、ちえこさんに驚きと感動を伝えたんです。ご本人は、
 「なんも変わったことはしてねぇよぉ。ばっちゃんは素人だがらねぇ。」
と笑ってらっしゃいました。

 ごちそうさまでした。
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