閑話39 「儂の小説」なのぢゃ!【1】
文字数 966文字
儂もですな、小説の真似事のようなものを書いたことがあるのですぢゃ。
『哀れな男』
【1】
たしかに、その男を批判する意見ばかりがずらりと並んでいた。
彼の言動に賛同する内容はほぼ皆無で、それらを投稿している多くの女性陣にあっては、彼の人格さえメッタ切りにするような剣幕だった。
興味本位でその『お悩み相談室』のサイトを覗き見た私は、少なからず暗澹たる気持ちになり、見なければよかったと思った――。
昨日、妻の姪が自宅に遊びに来て夕飯を一緒に食った。
私たちには子供がいなかったので、妻は妹の娘を実の子のように可愛がっていたし、姪も妻には幼いころから懐いて甘えていた。
三十も半ばを過ぎたのに結婚する気配もなく『おひとりさま暮らし』とやらを満喫しているらしい。
気が向いたとき、妻の好みそうな手土産を持ってぷらっと我が家を訪れ、妻もそれを楽しみにしている。
「A子がねぇ、もう離婚のこと考えてるんだって」
「あなた、その人に式のスピーチ頼まれたって言ってたわよね。
あれ、去年の暮でしょ? まだ三ヶ月も経ってないじゃない。
なに、やっぱり新婚旅行でなにかあったの?」
夕食を終えても、そのままダイニングテーブルに居座った女たちは、食後のデザートをパクつきながらそんな話をはじめた。
妻は年甲斐もなく興味津々である。
私は居間のソファでちびりちびりやりながら、テレビに熱中しているふりをして、そっと聞き耳を立てた。
「新婚旅行どころか、結婚式の当日よ。
A子ね、式の後の二次会で旦那さんに愛想つかしちゃったみたいなんだ」
「えーっ! そんな話聞いたことないわ」
などと、もっともらしい声の裏で、妻は早く続きを話せと暗に催促している。
姪の話の顛末はこうだ――。
新婦A子さんと新郎B君は外資系の会社の同僚で社内恋愛の末結ばれた。
新婦が五歳上というのも時代なのだろう。
A子さんはめでたく寿退社し、B君はサブセクション・チーフとして職場で頑張っているそうだ。(あとで調べてみたら、そのもったいぶった役職名は係長のことだと知って妙に安心した)ちなみに姪も新郎新婦の同僚である。
披露宴の二次会は、挙式したホテルのすぐ近くの小さなレストランを借りきってセッティングされていたので、親しい友人知人のほとんどが出席したらしい。事件はその席で起こった。
『哀れな男』
【1】
たしかに、その男を批判する意見ばかりがずらりと並んでいた。
彼の言動に賛同する内容はほぼ皆無で、それらを投稿している多くの女性陣にあっては、彼の人格さえメッタ切りにするような剣幕だった。
興味本位でその『お悩み相談室』のサイトを覗き見た私は、少なからず暗澹たる気持ちになり、見なければよかったと思った――。
昨日、妻の姪が自宅に遊びに来て夕飯を一緒に食った。
私たちには子供がいなかったので、妻は妹の娘を実の子のように可愛がっていたし、姪も妻には幼いころから懐いて甘えていた。
三十も半ばを過ぎたのに結婚する気配もなく『おひとりさま暮らし』とやらを満喫しているらしい。
気が向いたとき、妻の好みそうな手土産を持ってぷらっと我が家を訪れ、妻もそれを楽しみにしている。
「A子がねぇ、もう離婚のこと考えてるんだって」
「あなた、その人に式のスピーチ頼まれたって言ってたわよね。
あれ、去年の暮でしょ? まだ三ヶ月も経ってないじゃない。
なに、やっぱり新婚旅行でなにかあったの?」
夕食を終えても、そのままダイニングテーブルに居座った女たちは、食後のデザートをパクつきながらそんな話をはじめた。
妻は年甲斐もなく興味津々である。
私は居間のソファでちびりちびりやりながら、テレビに熱中しているふりをして、そっと聞き耳を立てた。
「新婚旅行どころか、結婚式の当日よ。
A子ね、式の後の二次会で旦那さんに愛想つかしちゃったみたいなんだ」
「えーっ! そんな話聞いたことないわ」
などと、もっともらしい声の裏で、妻は早く続きを話せと暗に催促している。
姪の話の顛末はこうだ――。
新婦A子さんと新郎B君は外資系の会社の同僚で社内恋愛の末結ばれた。
新婦が五歳上というのも時代なのだろう。
A子さんはめでたく寿退社し、B君はサブセクション・チーフとして職場で頑張っているそうだ。(あとで調べてみたら、そのもったいぶった役職名は係長のことだと知って妙に安心した)ちなみに姪も新郎新婦の同僚である。
披露宴の二次会は、挙式したホテルのすぐ近くの小さなレストランを借りきってセッティングされていたので、親しい友人知人のほとんどが出席したらしい。事件はその席で起こった。