第5話 振り下ろされた手刀
文字数 1,837文字
「お前はスマイルに殺される。動画の生中継を見せられる。どこかのビル内、ガラス片や壊れた机が散らばっている。
ソフィアが椅子に手足を縛り付けられ、猿轡を噛まされている。下着姿だ。げびた笑いを浮かべた醜い男が、周囲を囲っている」
体が震える。やめろと叫びだしたくなる。
「お前はスマイルに殺される。抵抗すればソフィアを犯したうえで殺す。人間の尊厳を徹底的に踏みにじったうえで殺す。
スマイルは鞄から道具を取り出した。軍用ナイフ、火炎放射器、改造高圧スタンガン、ライフル、筋弛緩剤」
呼吸が荒くなる。芝生を拳で叩く。地面がひび割れて、地域一帯がマグニチュード4程度の揺れを経験した。
「お前はスマイルに殺される。ナイフで肉をこそぎ落とすかなぁ? 火炎放射器でベーコンよろしく炙ろうかなぁ?
ゼロ距離でライフル撃って、いくつで貫通するか試そっかなぁ? まだまだあるから安心しろよぉ?」
舌足らずな声。ねっとりと人をいたぶるような高い声。
「お前はスマイルに殺される。筋弛緩剤を飲まされ、力が入らなくなる。口にホースを突っ込まれ、下水を飲まされる。
スマイルの飼う鼠が、内臓に齧りつく。奥へ、奥へ、腹の奥へ、ちゅうちゅうと鼻を押しつける。ライフル弾が頭蓋骨をノックする」
まだ我慢できた。地面のひびを増やすだけで済んだ。
「お前はスマイルに殺される。そぉそぉ、もぉどうでもいいからほんとのこというけどよぉ、あの動画、生中継じゃないんだわ。すでに撮り終わってるんだよねぇ~。
いまから続き見せるからよぉ、存分にオナってくれよぉ?」
理性が弾け飛ぶ。
「お前はスマイルに殺される。三十分が経過し、ソフィアが十人目の相手をしている頃、下水で窒息して死ぬ」
殺されるなら、先に殺してやる。もっと早くそうすべきだった。
俺は跳躍し、学校の屋上を越えた。部室の位置を鳥瞰し、空を蹴って突撃する。建物を砕きながら1階を目指す。
天井が崩れて、人体研究部の部室は散々だった。真昼の太陽が明るく差し込む。天井の瓦礫がソファーや机を突き刺し、壁に貼られたヌード女のポスターが破けていた。
立っている部員は、壁際に貼り付くスマイルだけだ。
「あ、アンドリュー! お、オメェ、な、なに、何して……」
口が臭い。膨れた腹に詰まるは、蛆虫か百足か。
「な、なんだよぉ。き、昨日のことは、べ、別にもぉいいからよぉ。もぉ無理に頼んだりしねぇよぉ、う、恨んでなんか――」
「……」
聞くに堪えない。スマイルの首を掴み、気管を潰す。肌に触れた手が爛れ落ちそうだ。汚らわしい。スマイルは呼吸を失い、「あ」とも「う」とも言えなくなる。
俺は当たり前のことを再確認した。
「存在価値のないヤツなんてごまんといる。全員を殺すには時間が惜しい。思いついた端から殺すのが正義だろ?
それが、力ある者の定めだ。そのくらい、お前のおつむでも理解できるよな?」
「――」
「死ねよ」
スマイルを片手で持ち上げる。手足がバタバタしてうざったい。左足の付け根を手刀で断ち、骨で止めて肉を握り潰す。大腿骨がクリスマスチキンさながら剥き出しになった。スマイルの悲鳴は聞こえない。
残る右足、両腕もチキンにする。
血がばしゃばしゃと噴き出る。制服がブタ未満の血で穢れる。最悪だ。クリーニング代も馬鹿にできないのに。
「おいスマイル、起きているか? まさかもう気絶したのか?」
「……」
「腑抜けかよ」
ぶらぶら揺れる四肢を切り落とす。腹を引っ掻き、ごっそり抉る。小腸が長くて邪魔だ。全て引き抜く。
指を二本伸ばし、雑に胸に突き刺す。ぐりんと首の骨を捻じ切り、手を離して頭を瓦礫に叩きつける。
豚面が気色悪い。足で踏み潰す。表皮を擦り取る。
人心地着く。
これで、予言は覆った。
俺は同情も憐れみもなく、事後作業に移った。
残りの部員の首をへし折る。血染めの制服を捨て、部員の制服を剥ぎ取る。煙草用のライターを見つけたので、自分の制服を焼く。ついでにスマイルも燃やす。
垂直飛びでさっさと学校を抜け出す。超人は捜査の前提にない。事件は迷宮入り確実だろう。
そんなことより、大事なことがある。
「お前はビルの崩落に巻き込まれて死ぬ」
路地裏に着地すると、しつこくも声がした。
俺は隣のビルを蹴り倒した。
中に何人、勤め人がいただろう。通行人が何人潰されただろう。別にいい。俺はいま、急いでいる。俺の邪魔をするな。
また何回か声がしたが、死の予言はすべて嘘だった。
証明は容易だった。