第7話
文字数 1,554文字
再び瞳を開けたのは、眠りについてから十年以上が経過したと思われる時期だった。
完全に塞がれた地面を掻き出し、太陽の日差しを受けると、次第に活力がみなぎってきた。長い間じっとしていたので、だいぶ体がなまっていたが、多少動く分には問題ない。
俺は久しぶりのシャバが懐かしく思え、すぐさまキョセイBに変身すると、日本へと飛び立つ。
眼下にはヒーローのいない世界で暴れまわったであろう怪獣たちが、我が物顔で闊歩していた。ちょっと視界に入っただけでも数十匹はいるので、日本中――いや世界中を合わせると、百万匹はくだらないだろう。
恐らくほとんどの人類は滅亡し、わずかに残っているであろう人々も、怪獣たちに怯えながら隠遁生活を余儀なくされているに違いない。
自然と笑いが込み上げてきた。
ザマ見ろ、俺様をないがしろにして抹殺しようとしたから天罰が下ったんだ。自分たちの力を過信して、怪獣どもと対等に渡り合おうなんて百万年早いわ。その結果がこのザマか? 俺がどれだけお前たちに貢献して来たか存分に思い知っただろう。
笑い声がおさまると、やがてそれは泣き声へと変わり、涙がとめどなく溢れてきた。エマはどうなったのだろう? 愛人なんてどうでも良い。せめて彼女だけは生き残って欲しかった。
アパートのあった場所へ一直線に向かう。
だが、そこは見事な焼け野原で、激戦の跡を思わせた。かつてアパートがあったであろう場所はただの空き地になっていた。なにか痕跡はないかと必死で地面を這いまわると、黄色いカチューシャが半分泥の中に埋まっているのを見つけた。エマは誰の助けも借りず、ただこの場所で俺の帰りを待ちわびていたに違いない。その姿を想像すると、自分の身勝手さを後悔せずにはいられなかった。こうなる事は最初から分かっていたじゃないか。初めて地球の任務を指名された時から上官や仲間たちから何度も聞かされていた。
「決して見返りを求めるな」と。俺たちは宇宙の平和の維持のため、正義の名のもとに不退転の覚悟で立ち向かわなければならないと。
なのに俺ときたら、初めてこの惑星に降り立った時の決意は何処へやら。ちょっと非難されたくらいでふて腐れて、あろうことか任務をほっぽり出して逃げ出してしまった。人類の平和どころか大事な人ひとりも守れないなんて、ヒーローが聞いてあきれる。へそを曲げている場合では無かったのだ。
自分が腹立たしくなり雄たけびを上げる。気が付くと俺は怪獣を手当たり次第になぎ倒していた。パンクローム光線を乱射し、怪獣どもを次々に焼き払っていく。
だがいくら無敵のヒーローとはいえ、所詮一人では多勢に無勢。長年眠っていたせいで体がいう事を利かないこともあり、あっという間に取り囲まれ、半殺しの目に合った。
這う這うの体でようやく逃げ切ると、自分の無力さが骨身に染みて、虚しさだけが残った。
もう手遅れだ、俺の力ではもはやどうする事もできない。かと言って応援を頼むにしても故郷の星に一旦帰らねばならない。要請している間に、地球は完全に奴らの支配下に落ちるのは目に見えていた。
エネルギー補充の為、大気圏を飛び出し太陽の光を浴びている。
いっそこのまま太陽に飛び込んでしまいたいという衝動に駆られている自分に気づく。徐々に太陽が大きくなるにつれ、これまでの生涯を思い起こした。
初めて怪獣との戦いで勝利した時。子供たちの憧れの眼差し。人々の感謝の言葉。エマの笑顔。テレビやネットから流れる悪口。エマの泣き顔。大人たちの軽蔑の視線。エマの怒り顔……。
俺は体を反転させ、地球へと舞い戻った。今の俺になにが出来るか分からない。
だが、ここで逃亡するよりもこの星に残り、奴らをせん滅する方法を探り当てよう。そう心に決めて地上に降り立った。
完全に塞がれた地面を掻き出し、太陽の日差しを受けると、次第に活力がみなぎってきた。長い間じっとしていたので、だいぶ体がなまっていたが、多少動く分には問題ない。
俺は久しぶりのシャバが懐かしく思え、すぐさまキョセイBに変身すると、日本へと飛び立つ。
眼下にはヒーローのいない世界で暴れまわったであろう怪獣たちが、我が物顔で闊歩していた。ちょっと視界に入っただけでも数十匹はいるので、日本中――いや世界中を合わせると、百万匹はくだらないだろう。
恐らくほとんどの人類は滅亡し、わずかに残っているであろう人々も、怪獣たちに怯えながら隠遁生活を余儀なくされているに違いない。
自然と笑いが込み上げてきた。
ザマ見ろ、俺様をないがしろにして抹殺しようとしたから天罰が下ったんだ。自分たちの力を過信して、怪獣どもと対等に渡り合おうなんて百万年早いわ。その結果がこのザマか? 俺がどれだけお前たちに貢献して来たか存分に思い知っただろう。
笑い声がおさまると、やがてそれは泣き声へと変わり、涙がとめどなく溢れてきた。エマはどうなったのだろう? 愛人なんてどうでも良い。せめて彼女だけは生き残って欲しかった。
アパートのあった場所へ一直線に向かう。
だが、そこは見事な焼け野原で、激戦の跡を思わせた。かつてアパートがあったであろう場所はただの空き地になっていた。なにか痕跡はないかと必死で地面を這いまわると、黄色いカチューシャが半分泥の中に埋まっているのを見つけた。エマは誰の助けも借りず、ただこの場所で俺の帰りを待ちわびていたに違いない。その姿を想像すると、自分の身勝手さを後悔せずにはいられなかった。こうなる事は最初から分かっていたじゃないか。初めて地球の任務を指名された時から上官や仲間たちから何度も聞かされていた。
「決して見返りを求めるな」と。俺たちは宇宙の平和の維持のため、正義の名のもとに不退転の覚悟で立ち向かわなければならないと。
なのに俺ときたら、初めてこの惑星に降り立った時の決意は何処へやら。ちょっと非難されたくらいでふて腐れて、あろうことか任務をほっぽり出して逃げ出してしまった。人類の平和どころか大事な人ひとりも守れないなんて、ヒーローが聞いてあきれる。へそを曲げている場合では無かったのだ。
自分が腹立たしくなり雄たけびを上げる。気が付くと俺は怪獣を手当たり次第になぎ倒していた。パンクローム光線を乱射し、怪獣どもを次々に焼き払っていく。
だがいくら無敵のヒーローとはいえ、所詮一人では多勢に無勢。長年眠っていたせいで体がいう事を利かないこともあり、あっという間に取り囲まれ、半殺しの目に合った。
這う這うの体でようやく逃げ切ると、自分の無力さが骨身に染みて、虚しさだけが残った。
もう手遅れだ、俺の力ではもはやどうする事もできない。かと言って応援を頼むにしても故郷の星に一旦帰らねばならない。要請している間に、地球は完全に奴らの支配下に落ちるのは目に見えていた。
エネルギー補充の為、大気圏を飛び出し太陽の光を浴びている。
いっそこのまま太陽に飛び込んでしまいたいという衝動に駆られている自分に気づく。徐々に太陽が大きくなるにつれ、これまでの生涯を思い起こした。
初めて怪獣との戦いで勝利した時。子供たちの憧れの眼差し。人々の感謝の言葉。エマの笑顔。テレビやネットから流れる悪口。エマの泣き顔。大人たちの軽蔑の視線。エマの怒り顔……。
俺は体を反転させ、地球へと舞い戻った。今の俺になにが出来るか分からない。
だが、ここで逃亡するよりもこの星に残り、奴らをせん滅する方法を探り当てよう。そう心に決めて地上に降り立った。