プロローグ

文字数 359文字

 ただ水色の空。たおやかに揺れるオレンジ色の樹葉。時折、風に(あお)られるその姿は、沸き立つ雲を思わせる。
 樹の幹は太く、抱え込もうとすれば十二本の腕が必要だが、珍しくはない。少し目を巡らせれば幾つもの大樹が目に映り、その葉影に息づく鳥の声が聞こえてくる。
 大樹は、公園を埋め尽くす緑色の絨毯の上に枝を広げている。人々はこの葉の下で雨をやり過ごし、晴れた日には家族で食事を楽しむことができた。すべての家族がテーブルを持ち出したとしても、望まない限りこのひとときを邪魔されることはない。人々を(はぐく)む数え切れない大樹は、テーブルの数を遥かに上回っていた。
 どこを歩いても、どこを旅しても多くの樹々が迎えてくれる。この景色が変わることはない。
 オレンジ色の樹葉が沸き立った。葉擦(はず)れの音に心がざわつく。
 風が吹き始めた。季節が変わる。
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