第5話

文字数 1,524文字

●アロア
(似ている・・・というよりも、彼が生きていたらきっとこんな姿だったはず。)
アロアは目の前で雄弁を振るう少年をじっと見つめていた。
本当は泣き出したくて、問いただしたくてたまらなかった。
そんな気持ちでいたものだから少年が語った話は、アロアの耳にはほとんど入っていなかった。
「おい、貴様、聞いているのか?」
アロアは、はっと我に返る。
「え?ええ。聞いているわよ。だから、えっと、苦労したのよね?故郷を出てから、行く先々でひどい扱いを受けて」
少年はむっとした。
「だからそこからの話を今、していたのではないか」
「悪かったわ。少し考え事をしていたの。もう一回話してくれない?」
少年は舌打ちをしつつまた話を始めた。
「故郷を出た私にはどうしても守らなければならないものができた」
「守らなければならないもの?」
「これだ」
少年は、細長い荷物をアロアの前に置いた。
「これが?」
「これは、訳あって国王軍に狙われている。これを守るために私は用心棒を雇いたかった。だが、どの店でも私に用心棒を雇わせてはくれなかった。金ならあるというのに」
「まあ、素性のわからない子供に用心棒を雇わせたくはないわよね」
「大金をはたくと申し出たのに?」
「大金をはたく子供なんて尚更怪しいわよ」
アロアは少年の荷物を見つめた。縦に細長いその荷物はまるで槍か剣でも中に入って
いるようだった。
「ねえ、これ中身は何が入っているの?」
アロアが少年の荷物に手を伸ばそうとした。
「触るな!」
少年が叫んだ。
「これのために用心棒を雇いたいのに中身も見せてくれないの?」
「中身は誰にも教えない」
「そりゃますます怪しくて誰も雇えないわけね」
少年はむすっとしながらも話を続けた。
「だから、貴様に呼んで欲しいのだ」
「呼ぶって何を?」
「あの時・・・数人の国王軍に囲まれた時、私を助けてくれた奴を用心棒に雇いたい。そいつを、ここに呼べ」
アロアはきょとんとした顔で少年を見つめた。
「なんだ?貴様の知り合いなのだろう?」
「えっと、あの時あなたを助けた人を呼べと言っているのよね?」
少年は少しいらついたようにちっと舌打ちをした。
「さっきからそう言っている」
「あーそうよね。じゃあここにいるわ」
少年は、きょとんとした顔で目を瞬いた。
「だから、私なのよ。あなたを助けたのは」
「お前が私を看病したことはわかっている。そうではなく国王軍に囲まれた時、助けてくれた」
「だからそれが私なんだって」
アロアは少年の言葉を遮った。
「は?」
「私が、あなたを国王軍の連中から助けて、ここまで運んで看病した。以上」
少年はまた目を瞬いた。
「いや・・・不可能だ・・・!女のお前が数人の国王軍を倒すなんて。そして1人でここまで運んでくるなんて、絶対不可能だ!お前のような奴ができるのは看病くらいだろ!」
「と言われてもね。本当のことだから仕方ないわ」
「う、嘘をつくな!私を騙しているのだな。すべて自分の手柄にしようとしているのか!なんて卑劣な。これだから田舎者は嫌なのだ。いやらしい!」
「まあ、落ち着きなよ。今お茶入れるしさ、ちょっとゆっくり話しましょう?」
アロアは少年の暴言に全く動じることもなく部屋の奥に行き、ポットに水を入れ始めた。
「それよりさ、あなたいい加減名前・・・」
ふと少年の方を見ると、少年が何かぶつぶつ言いながら荷物を抱えて部屋を出て行こうとしていた。
「あ、ちょっと!」
追いかけようとしたが、アロアの肘が洗いたての食器に当たり彼女の行く先を粉々になった食器が塞いだ。
アロアが足元を見つめている間に扉が大きな音で閉まる音がした。

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