第4話

文字数 1,827文字

●ランスロット
アーサーは俺のことをどう思っているのだろう。
友を殺した裏切り者ってとこか。
「騎士団長!ランスロット団長!」
ランスロットは、鬱陶しそうに声がする方を睨んだ。部屋の扉の前で、足を揃え、ピンと背筋を伸ばした背の高い男が立っていた。
見たことのない男だ。新しい伝令か?
しかし、彼の見事な背筋はランスロットの鋭い眼光に萎縮し、少し縮こまった。
「すみません。なにか考え事でも、されていたのですか?」
「別に何もない。何の用だ?」
男は失礼しますと言い、部屋に足を踏み入れた。暖炉の前で椅子に腰掛けているランスロットの側に寄り、また足を揃え、ピンと背筋を伸ばした。
「行方をくらましているアーサー王子のことですが、何でも西の果ての街の国王軍が目撃したとの情報が」
「目撃?捕まえられなかったのか?」
「目撃をしただけだという話です」
ランスロットはうーんとうなった。
「変な話だな」
背筋のまっすぐな男は不思議そうな顔をした。
「変な話・・・でしょうか?」
「報酬はでているのだろう?」
「はい。もちろん」
「じゃあ、やっぱり変だ」
「そうでしょうか。国王軍の者が、王子を捕らえるのは恐れ多いと思ったのかもしれません」
「お前、忘れたのか?逃亡者が王子であることは騎士団にしか伝えられていない。ど田舎の国王軍は何も知らないはずだ」
「では、王子が応戦して、国王軍が負けてしまい、見栄を張るために目撃しただけと嘘をついた・・・ということでは?」
「いや、絶対にそれはない」
「なぜです?一国の王子ですよ!そう簡単には捕まらないでしょう」
ランスロットは、ふと思い出した。初めてアーサーに出会った日のこと。アーサーの偉そうな態度に腹が立ち、少し肩を押しただけで彼が吹っ飛んで行ってしまったこと。
まだほんの1年前のことなのに。
ランスロットはそのことを思い出し、少し頬を綻ばせた。
「アーサーは、弱いんだよ。田舎の国王軍でも、簡単に捕まえられるくらいにな」
「え?」
背筋の良い男は驚いてまた、背筋が縮こまった。
「王子たるもの鍛えられているものだとばかり思っておりました」
「お前、何も知らないのか?」
「え?」
「この城で流れている噂も知らないのか?」
「噂ですか?その・・・恥ずかしながら、私、この城に友人というものがおりませんでして・・・」
ランスロットは吹き出した。
「なんだ、お前配属されたばかりなのか?」
「はい。王様のお眼鏡に叶いまして、1週間前に騎士団の一員にさせて頂きました」
「ほお」
「なので、噂というものは聞いたことがございません」
「そうか」
ランスロットは何か少し考えた後、椅子から立ち上がり、机に向かった。
「あの、ランスロット団長?」
「少し待て」
ランスロットは、机の上に無造作に積み上げられた紙やら本やらの中から真っ白な用紙をひっぱり出し、ペンを執った。
数分後、彼は、その用紙を封筒に入れ、男に差し出した。
「お前に仕事をやる」
「仕事ですか?」
「私への伝令ばかりでは面白くなかろう。これを届けて欲しい」
男は封筒を受け取った。宛先も何も書かれていない。
「これをどこに届ければよろしいのですか?」
「旧王族のグウィネヴィアに届けてくれ。」
「旧王族の方に・・・ですか?」
「ああ。私の古い友人だ。それから、このことは誰にも話すなよ」
「誰にも?」
「友人のいないお前にこそできる仕事だ」
男は少しむっとして、ランスロットを睨んだが、ランスロットに軽く睨み返されてまた背筋が縮こまった。
「ランスロット団長。この仕事をするには、条件があります」
「条件?」
男は背筋を真っ直ぐにし、ランスロットを見つめた。
「私に噂の内容を教えてくださいませんか?」
ランスロットはまた吹き出した。
「そんなことが条件か」
「はい!」
「あー悪かったよ。お前に友人がいないと言ったから落ち込んでいるのだろう?だが、大した噂ではないぞ」
「内容は関係ありません」
男はランスロットを睨んだ。さっきと違い、彼の目には光が宿っていた。
「皆が知っていて私が知らないというのが問題なのです」
ランスロットは、睨んできた男の顔が誰かに似ているような気がした。
気弱な男かと思ったがそうでもないようだな。
「いいだろう。噂ってのはな」
ランスロットは、じっと男の目を見つめた。
「現王であるウーサー王が偽王ではないかというものだ」
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