第2話 スーの肢体

文字数 4,047文字

 酒井は芸能プロダクションを経営している、と言ってもTVや映画に出るようなタレントを抱えるような大手プロダクションではない、日本のショーパブで働く女をスカウトして日本に送り込むのが主な仕事の零細プロダクションだ。
 酒井は大学を出ると大手の芸能プロダクションに就職した、しかし、生来野心家だった彼はしばしば自らの判断で勝手な行動を起し、上司とぶつかった。
 その結果、東南アジア方面のスカウトを申し付けられた、はっきり言って左遷だが、東南アジアは彼の性格にしっくりと合い、現地で広い人脈を持つようになって、それを頼りに独立したのだ。
 大手プロダクションにいた頃も、スカウトしたタレントがTVや映画に出るようになるのは稀だったが、独立してみると大きな看板を背負っていないだけ余計に厳しかった。
 しかし、こちらで広い人脈を持つ彼は、余人では出来ない仕事をこなすことが出来た、少女ヌードモデル探しも彼にしか出来ない仕事、広く知られることはないがその道ではオーソリティなのだ。
 今回も当てもなく渡航してきたわけではないのだが、こちらの仲介役が紹介してきた娘はどれも気に入らなかった、酒井が求めているのは可憐な感じの華奢な少女なのだが、現地ではその辺りの感覚がズレていて、なるべく大人っぽい、少し大きくなればグラマラスになりそうな少女を揃えていたのだ、こういうことは珍しくない、何度念を押しても理解されないらしい。
 はっきり言って収穫はないが、手ぶらで帰るのも面白くない、だが女を連れずに日本に戻っても仕方がない、商品がなければ売り込みもできないので、さしあたっての仕事はないのだ、だからビザが切れる寸前まで今回もこうして粘ることにした、あまり効率の良い方法とは言えないが……。

 しかし、今回は幸運だった、張り込み三日目にしてめがねに叶う少女を見つけることができたのだ。

 酒井の基準はいくつかある、まず可愛らしいこと、当然だが第一の基準だ。
 次に日本人に見えること、この国の少女は概してきらきらと輝く大きくて魅力的な瞳を持っているが、厚い唇と顔の中央にでんと構えた鼻を持っていることも多い。
 しかし、稀に日本人で通りそうなすっきりした顔立ちの娘もいる、酒井が注目するのはそういう少女だ、そしてあまり色黒でもいけない、こちらのスタンダードからすればかなり色白でなければならないのだ。
 三つ目は少女らしいプロポーションを持っていること、実年齢はともかく、日本で10~12歳くらいに見えないといけない、その辺りの需要が一番大きいし、そもそも陰毛が生えていては少女ヌードのアドバンテージは生かせない、売れる売れないの以前に検閲に引っかかってしまう、剃ったり脱毛したりしてもだめだ、毛穴の様子でわかってしまう。

 実はスーは三つの条件全てに合致したわけではない、正直言って日本人には見えないのだ。
 肌の色がこの国の標準よりは少し白いものの、日本人の基準からすると少々浅黒い。
 健康的に日焼けした日本人少女のレベルではあるが、日本人なら水着で隠れる部分は白いのに対して、こちらの娘は一様に浅黒いからヌードになればはっきりわかってしまう……しかしそれを補って余りある魅力を感じた。
 スーの顎はほっそりしていて、鼻筋は通っているとは言えないまでも小ぶりでかわいらしい、日本人好みの、くどさのないすっきりした顔立ち。
 髪は黒々としたショートヘア、その髪型も小顔にしっくりと似合っているが、長く伸ばしたらぐっと清楚な雰囲気を醸し出すだろう。
 唇はほんの少し厚めで南方系のティストを漂わせるが、形が良いのでくどさはなく、むしろすっきりした顔立ちに肉感的なアクセントを乗せている。
 そして特筆すべきは瞳だ、ぱっちりと大きいだけでなく透明感があり、この国の少女たちの中でもとりわけ印象的だったのだ、そこが「日本人に見える」という基準を無視して声をかけた一番の理由だ。
 まあ、基準などと言うものは比較判定に必要なものであって、一目見て感じるものがあれば基準などと言うものは外しても構わない、スーを見たとたん酒井は『売れる』と直感した、それこそが重要なのだ。


 ホテルに戻り、父親立会いの下で酒井はスーと向き合った。
「洋服を脱いで」
 ぶっきらぼうに言う、素直に応じなければ怒鳴って脅す、甘い言葉は不要だし、今後の撮影の事を考えると、これは仕事であり、雇用主からの命令である事をきっちり示しておく必要がある。
 しかしスーに脅しは必要なかった、恥じらいながらもきっぱりと裸になったのだ。
 気に入られなければ売春宿に売られる……その状況を理解しているのだろう、その聡明さも好ましい
 だが、さすがに前だけは手で隠している。
「手をどけろ」
 それこそ肝心な部分だ、しっかり記録して帰らなければならない、スーの掌がゆっくりと移動して行く。
「回ってみろ、ゆっくりとな……もっとゆっくり……そうだ、もう一回……もう一回……」
 酒井はじっくりと時間をかけて一糸纏わぬ姿のスーの全てを吟味した。

 スーは完璧だった。

 肌は浅黒いものの、スーの顔立ちにはむしろマッチしている、大きな瞳がより際立つのだ。 胸はまだまっ平だが、今はこれで充分、あまり大きくては年齢にサバを読んだと思われかねない、撮影を重ねて行く間に徐々に膨らんで来る方が好ましい。
 だが乳首は男の子のそれとは違いわずかに隆起していて、いずれ魅力的に突出するようになる女の乳首をその中に隠しているのがわかる。
 肩や背中も成人女性とは違っていかにも華奢で、腕の中にすっぽりと納まりそうな細さ、ぎゅっと抱きしめたら折れてしまいそうな儚さが好ましい。
 脚も重要な部分、成人女性ならば細くとも腿、膝、ふくらはぎ、足首の別がはっきりしている、それはそれでもちろん魅力的なのだが、スーの脚は膝や足首の締りが明確でないくらいに一様に細い、酒井はその手の男が一様に細い脚を好むことは知っている、と言うより酒井が見ても美しい脚のラインを持っている。
 一方、骨盤がしっかりしているのだろう、腰つきには女らしさの兆しが見えていて尻の肉付きもほど良く、背中から腰、尻にかけてのラインが特別に美しい。
 
 そして何より性器が魅力的だった、柔らかそうに盛り上がった丘に小さめの深いスリット、少女は総じて前付きなものだが、スーは特に前付きで正面からでも全てが露わになる、そして、とりわけ特徴的なのがスリットの脇にぽつんとあるほくろ、マリリン・モンローの口元のほくろは彼女のトレードマークだったが、スーのスリットを唇に見立てると丁度マリリンの口元のよう、しかも秘密の部分にあるほくろだから、淫靡な秘密、と言った趣もあり余計に魅力的だ。
 
 まずは純粋な記録としての撮影を終えると、少しポーズに注文を付けてみる。
 動きがぎこちないのは仕方がないとしても、背中から腰にかけてのラインが常に奇麗なS字を描くのでポーズはぴたりと決まる、腰が奇麗に反っているので贅肉のない下腹が少し前に突き出るのも少女らしくて魅力的だ、細い背中は頼りなげで思わず抱きしめたくなる、そして長く伸びやかな手足も美しい。
 色々と注文を付けながら30分も撮影していると、スーから最初の硬さが取れてきて表情も生き生きとし始め、大きな瞳はスーの感情をそのまま映し出してより印象深くなる。
 扇情的なポーズを要求すると、恥じらいからか悩ましげな表情になるのだが、それでいてかなり大胆なポーズを指示しても素直に応じる、思い切り開脚させた時にスリットの内部も垣間見えたが、肌が浅黒い分ピンクの肉が刺激的に見える……。
 記録としてはもう充分だったのだが酒井は更に30分ほど撮影を続けた、せっかく乗ってきたからと言うのもあるが、酒井自身がスーに魅せられ始めていたのだ。

「まだ撮るのか?」
 父親は娘がヌード写真を撮られていることにあまり関心はないようだ、退屈した感じで言う。
 すっかり撮影に熱中していた酒井は興を削がれたように感じて少しムッとした。
「2,000ドル払うんだ、それくらいで文句をつけるならこの話はなかったことにしても良いんだぞ」
「いや、悪かった……」
 2,000ドルと言う言葉はこの男を黙らせるには効果的なキーワードになるようだ。
「わかればいい、だが撮影もこれで充分だよ」
「で? 娘は合格か?」
「ああ、申し分ない、家に案内してもらおうか、そこで2,000ドル渡すよ、契約しよう」
 男の顔に下卑た笑みが浮かび、スーには安堵の笑みが浮かんだ……。


「スー! スー! ああ、神様、スーが戻ってきた」
「お母さん!」
 おそらくはスーが父親に引っ張られて行った時のままだったのだろう、家の前でうずくまっていた母親はスーの名を何度も呼んで抱きしめて泣き、スーも母親にすがって泣いた。
 その様子に心動かされないわけではないが、ビジネスはビジネスだ……。
 酒井が少女ヌードのことを告げると、母親の表情は一瞬曇ったものの、娘を売らずに済み、撮影ごとに現在の年収を上回るギャラも貰えるとあっては納得せざるを得ない。
 酒井は幾つかきつく注意をしてからスーの家を後にした。
 以前、契約金を渡したはいいが、いざ撮影に来てみると娘が太ってしまっていたという失敗例があるのだ。
 スーの家も貧しい、金を手にして美味いもの、甘いものが充分手に入る様になると歯止めが利かなくなる可能性もある、少しでも太ったら撮影はなく、当然ギャラも支払われないと釘を刺して置かねばならない。
 父親はさっさと奥に引っ込んでしまったが、母親とスーは真剣な顔で聞き、そのつど深く頷いていた、娘を売らずに、売られずに済むのであれば何でも我慢できる……そんな表情だ、この分なら心配はないだろう……。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み