第4話 打ち切り

文字数 1,099文字

 一般的に少女モデルの賞味期間は短い、スーの場合、体つきに女らしさを備え始める直前の肢体、今は素晴らしいが1~2年後にはどうなるかわからない、胸や尻が膨らみ始めた時にどう変わって行くのか予想がつかないのだ、それに加えて、撮影に慣れて来ると初々しさが失われて行ってしまうことも多い、10歳やそこらの子供にそれではいけないと言い聞かせても無理と言うもの、それゆえ正に一瞬の輝きを捉えないとダメなのだ、ちょっとでも鮮度が失われるとすぐに見向きもされなくなる。
 酒井とカメラマンはほぼ季節ごとにスーを撮影した。
 現地での撮影に飽き足らず、スーをあちらこちらと連れ廻して撮影した。
 常夏の島で、日本の風景の中で、ヨーロッパの古都で、アメリカの片田舎で……。
 写真集を出せば売れるのは間違いないので経費は潤沢に使えたのだ。
 そしてどこで撮影してもスーは絵になった、その多彩な表情と魅力的な肢体はさまざまなシチュエーションを得て輝きを放ち続けたのだ。

 1年ほど経つと胸や尻が膨らみ始めたスーだが、心配していたような崩れは起きなかった、急に大人びたり妙にグラマラスになるようなことはなく、正に蕾がほころび花弁が開いて行くように少しづつゆっくりと大人に近づいて行く……多くのファンがその時間を共有し、スーの成長を見守った。
 撮影に慣れて行ってもスーの魅力は失われなかった、天真爛漫な笑顔と憂いを帯びた表情の落差はますます大きくなり、ファンの心をがっちりと掴んで離さなかった。

 が、さすがに3年、10冊目の写真集が出る頃にはどうしても新鮮味は薄れて来る、そしてスーを見守り続けた熱心なファンも『次』を探し始める。
 それに追い討ちをかけるように老舗の少女ヌード雑誌が出版自粛に追い込まれる事件が起こった、これまで『芸術性』を主張することで何とか言い逃れて来たが、とうとう『これは芸術ではなくエロだ』と断じられてしまったのだ。
 ひとたびそう断じられれば芸術性の有無は問題ではなくなる、『これは芸術でこれはエロ』と言うのはあくまで主観によるもの、規制する上での線引きは出来ないのだ。
 まして被写体は判断力がまだ十分に育っていない子供だ、性器が写っている、写っていないにかかわらず、児童保護の観点から全ての少女ヌードが規制の対象となった。
 当然出版社は少女ヌード写真集の発行に二の足を踏むようになり、それと共に少女ヌードブームそのものも瞬く間に下火になって行った。
 撮影しても発行さえできないのではどうにもならない、酒井は後ろ髪を引かれながらもビジネスと割り切ってスーとの契約を打ち切った……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み