11. 子猫にミルクを
文字数 1,554文字
今、道端 にいるビアンカは、すぐ横の暗くて細い通路に、だらんと横たわっている小さな何か生き物を見つけた。その何かは、じっと目を凝 らしてみるとすぐに分かった。一体ではない。
「あ、ライカ様、あそこに子猫がいますわ。」と、最初は声を弾ませたビアンカだったが、次には囁 くような小声になり、「・・・なんだか元気がないみたい。なぜかしら。」
それを、カイルもすぐに見つけることができた。
そこに弱々しく寝そべっている子猫たちを・・・。
「きっと、おなかがすいてるんだよ。ちょっと待ってて、ミルクをもらってくるから。」
そう言って、ビアンカをその場で待たせたカイルは、それが手に入りそうな店が近くにあったのを覚えていたので、そこですぐに牛乳瓶 一本を購入して戻ってきた。
子猫は三匹いた。生後一か月ほどに見える。毛の色はどれも、全体的には白と灰色の二色で、瞳はうっすらと青味がかっている。色の濃い薄いはあるものの、どれも似たような感じなので兄弟だろう。その子猫たちは固まって寝転がっていたが、二人が近づいて行っても逃げようとしない。人に慣れていて気にもしないというよりは、警戒する気力もないといった感じだった。
カイルは辺りをきょろきょろと見渡してみた。
母猫の姿は分からなかった。
「どうやって飲ませますの?」
「見てて。ほら、こうやって手のひらで器を作ってあげるんだ。」
カイルが左手にミルクを注いでみせると、意外なことに、その子猫たちにすぐに反応があった。そろってぴくりと頭を動かしたかと思うと、一匹がためらいがちに近寄ってきて、首を伸ばしたのである。すると、続いて次々とミルクに口を付けに来た。
「まあ、飲んでいますわ。可愛い。」
ビアンカは無邪気な笑顔を浮かべていた。
この王女様は十五歳なのだが、カイルには、その話し方や仕草 は実際の歳よりずいぶん幼く思えた。もっとも、ギルやレッドからしてみれば、カイル自身もとても十七歳には見えないのだが。
「ほら、ビアンカもやってみて。」
「え、でも、その子猫・・・とても汚れていますもの・・・触 れないわ。」
子猫たちの毛の色は、白と灰色の二色だ・・・が、今は真っ白な毛の部分など無かった。体じゅう薄汚れていて、特に腹の毛は黒く固まりもつれている。
カイルは悲しげに微笑んだ。
「ビアンカ・・・汚れてなんかいないよ。ちゃんと見て、この子たちの眼を。ほら、みんなビアンカがミルクをくれるのを待ってるよ。」
その表情を見ると、ビアンカはまたドキッとした。
もともと同じ顔なので、特に気難 しいというわけでもないライカとカイルに大きな差はなかったが、ライカ王子がこのように切ない微笑を浮かべたところを、ビアンカは今まで一度も見たことがなかった。それで、慈 しみや哀れみ ―― 実際カイルは、ビアンカ王女に対してそんな感情さえ覚えた ―― が内から滲 み出すように面上に表れたそのほほ笑みは、今度も王女の胸をキュンとさせた。それだけでなく、彼のそのたった一言で、ビアンカは自分の中で何かが変わったのを感じ、そして、先ほどの自分の発言をとても恥ずかしく思い、後悔した。
「ライカ様・・・ビアンカ、ミルクをあげますわ。」
それを聞くと、カイルはニコッと笑った。
「うん、みんなとても可愛いよ。こんなに喜んでる。」
ビアンカは、よく手入れのされた綺麗な両手を合わせて、器 を作ってみた。そこにカイルがミルクを注ぐ。それを、もうじれったそうに見ていた子猫たちが、一斉にペロペロと彼女の手のひらを舐 めだした。
無我夢中の子猫たちに、ビアンカは明るい笑い声を上げた。
「本当。ふふ、くすぐったいわ。こんなに猫が人懐 っこくて可愛らしいなんて。」
その嬉しそうな横顔を見つめているカイルは、安心したようにそっと笑みを浮かべた。
「あ、ライカ様、あそこに子猫がいますわ。」と、最初は声を弾ませたビアンカだったが、次には
それを、カイルもすぐに見つけることができた。
そこに弱々しく寝そべっている子猫たちを・・・。
「きっと、おなかがすいてるんだよ。ちょっと待ってて、ミルクをもらってくるから。」
そう言って、ビアンカをその場で待たせたカイルは、それが手に入りそうな店が近くにあったのを覚えていたので、そこですぐに牛乳
子猫は三匹いた。生後一か月ほどに見える。毛の色はどれも、全体的には白と灰色の二色で、瞳はうっすらと青味がかっている。色の濃い薄いはあるものの、どれも似たような感じなので兄弟だろう。その子猫たちは固まって寝転がっていたが、二人が近づいて行っても逃げようとしない。人に慣れていて気にもしないというよりは、警戒する気力もないといった感じだった。
カイルは辺りをきょろきょろと見渡してみた。
母猫の姿は分からなかった。
「どうやって飲ませますの?」
「見てて。ほら、こうやって手のひらで器を作ってあげるんだ。」
カイルが左手にミルクを注いでみせると、意外なことに、その子猫たちにすぐに反応があった。そろってぴくりと頭を動かしたかと思うと、一匹がためらいがちに近寄ってきて、首を伸ばしたのである。すると、続いて次々とミルクに口を付けに来た。
「まあ、飲んでいますわ。可愛い。」
ビアンカは無邪気な笑顔を浮かべていた。
この王女様は十五歳なのだが、カイルには、その話し方や
「ほら、ビアンカもやってみて。」
「え、でも、その子猫・・・とても汚れていますもの・・・
子猫たちの毛の色は、白と灰色の二色だ・・・が、今は真っ白な毛の部分など無かった。体じゅう薄汚れていて、特に腹の毛は黒く固まりもつれている。
カイルは悲しげに微笑んだ。
「ビアンカ・・・汚れてなんかいないよ。ちゃんと見て、この子たちの眼を。ほら、みんなビアンカがミルクをくれるのを待ってるよ。」
その表情を見ると、ビアンカはまたドキッとした。
もともと同じ顔なので、特に
「ライカ様・・・ビアンカ、ミルクをあげますわ。」
それを聞くと、カイルはニコッと笑った。
「うん、みんなとても可愛いよ。こんなに喜んでる。」
ビアンカは、よく手入れのされた綺麗な両手を合わせて、
無我夢中の子猫たちに、ビアンカは明るい笑い声を上げた。
「本当。ふふ、くすぐったいわ。こんなに猫が
その嬉しそうな横顔を見つめているカイルは、安心したようにそっと笑みを浮かべた。