第3話 望

文字数 363文字

 絶望なんて気のせいさ

 そう思いたかった。死にたい。

 戻る頃にはすっかり夜だ。眠たい。山へ帰るには、いくつものトンネルを潜る。そんなに長くはない、けれどりっぱに薄暗いトンネル。ひい、ふう、みい、よう、五つばかりか。僕はそれを主に深夜と朝に何度も潜る。その度絶望を少しずつ深めて、遂には追い越した。
 しょぼつく目。暗い山道。眠ってしまいそうだ。夜のトンネルは暖色の照明に薄明るい。今夜、戻れやしないかな?
 ひとつ。
 ふたつ。
 みっつ。
 四つめのトンネルを潜ると工事で車線規制。街灯を追いやる風船みたいな夜間灯が浮かんだそこは、昼間みたいに明るかった。その光に耐えかねて見上げた空には朧月。もうすぐ満月。いまは睦月の半ば前。それにしては暑いけど。秋には僕が採るきのこを待ってる人たち。そろそろ月を、季節を気にしなきゃ。小さな希望。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み