第4話 下弦

文字数 441文字

 最後のトンネルに差し掛かる。トンネルの中が明るくて賑やかだ。そうか夏。夏の夜。夜通し踊り明かす盆踊りの伝統文化もこの辺にはある。夜更けだのに喧しい音。トンネル入り口手前左側の駐車場でロックバンドが演奏してる。聴き憶えのある曲。英語詞の暑苦しいロックソングを、ギター・ボーカルの痩せた小男ががなりギターをかき鳴らす。ふうん。背を向けトンネルへ。屋台。懐かしいな。じゃがバター貰おうか。小銭くらいはある。一斗缶からマーガリン。

「それはバターじゃないよ」

 ひとり呟いた言葉は喧騒に吸い込まれて行く。ヨーヨー射的に金魚すくい。浴衣の艶やかな中年女性の肌が白く、滲んだ汗に光って眩い。

「ママー!」

 甲高いのと、ハスキーなのと、女の子の呼ぶ声。それに応える困ったような、穏やかなような笑顔。あれ?どこかであのひとたち。父親の、旦那の居ない、幸せそうな親子。何故だかいたたまれない気持ちで歩を進める。兄弟がヨーヨーでキャッチボール。捕り損ねた兄、アスファルトに落ちたヨーヨーが、ぱしゃん


 割れた
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み