(二)-3

文字数 1,198文字

 翌日、大学のキャンパス内を歩いていると、エミちゃんを見つけた。例の俺が一目惚れをして告った子だった。
 学部は違うようだけど、同じキャンパスに通っているので、遭遇するチャンスはゼロではない。とはいえ、遭遇できるチャンスはそう多くない。だから、次に見かけたら即座に声を掛けようと思っていたのだ。
 そこで、一号館の前で「ねえねえ、この前の返事は?」と声を掛けた。真顔で迫っても怖がらせてしまい、断られてしまうかもしれない。だからフレンドリーに声をかけた。
「ごめん、もうちょっと待っていてくれるかな」
 そう言った小柄な彼女のショートカットにした黒のサラサラヘアは、太陽の光に反射してつやつや輝いて見えた。顔は端正で、服装は落ち着いた抑え目のトーンの緑色だった。チェック柄のスカートが短めなのは、彼女もまだ入学したばかりの新大学生だからだ。高校時代の制服のスカート丈と同じくらいなのだろう。
 キャンパス内にはときどき、大人っぽい格好をしたお姉さんもいたりする。そういう女も嫌いじゃない、というよりそういう女も好きだが、この千倉エミちゃんのようなカワイイ系の子も好きなんだと、知らない自分を見つけることができたと我ながら感心した。
 彼女と軽く授業のことなど、キャンパスライフについて会話を交わしていると、一号館から午前中の講義を終えて出てきた二人組の男子学生がエミちゃんに声を掛けてきた。
 そのうちの片方を見て、俺は思わず「あっ」と声が出た。
 それは保田イチロウだった。目が合った瞬間、すぐに目線を外した。気まずかった。
「あれ、二人は知り合い?」
 イチロウと一緒にいた、もう一人の男子学生が言った。
 イチロウは「あ、ああ」と言ってから、俺に人間関係を紹介した。
「彼は浜野エイジ。そして隣が千倉エミ」
 彼女の紹介のときに、俺は「知ってる」と短く言った。
「そうなのか」
 イチロウはそう言うと「二人とも俺の同郷なんだ」と付け加えた。
 俺は驚いた。イチロウは高校に上がるときに崎玉から長野に引っ越してきた。ということはこの二人は崎玉にいた中学時代の友人ということになるのか。
 さらにイチロウはすぐに俺を三人に紹介した。
「彼は大貫ライタ。俺の高校からの友人で、サッカー部のエース。俺の相棒。そして、俺が好きな相手だ」
 すると、イチロウと一緒にやってきた浜野エイジが驚いた顔を見せた。俺も驚いてイチロウと浜野エイジを交互に見た。
「ちょっと待って、イチロウ。君の好きな人ってこの人なのか?」
 線が細くて背の高い眼鏡をかけたエイジがそう言った。
「いや、まだ返事はもらっていない」
 イチロウはそう言うと、俺の方を見た。
 俺に何かコメントしろと? 返事は後日って言ったじゃないか。確かにあれは昨日の事だったし、ああ、でも今はもう既にその後日か……。ここではっきりと「それはない!」と言ってやったほうがいいのか。親友なのに……。
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