(二)

文字数 849文字

「それで、何、急に」
 俺はイチロウに尋ねた。
「ああ、ちょっと相談があってさ」
 イチロウは、俺が出したベッドの前の座布団に座りながら言った。
「で、どうしたの?」
 イチロウにそう尋ねたのだが、言いにくいことなのか、その後は言葉が続かなかった。
 イチロウとは高校時代からの付き合いだ。彼とは高校一年の時、同じ部活のサッカー部で、出会った。
 彼は俺の地元、長野の人間ではなく、崎玉から引っ越してきた。当時周囲は知らない人間ばかりだったし、彼自身真面目な性格でもあり、すぐには周囲に溶け込むことができないでいた。でも俺は、自分で言うのもなんだが、持ち前の気楽さで仲良くなった。
 それにイチロウはサッカーが上手かった。俺らの通った県立篠ノ井東高校は、県内でもサッカーは結構強かった。それなので、サッカー部に入る目的で入学してくる生徒も少なくなく、サッカーが上手いヤツも多かった。その中でもイチロウはかなりの腕、いや脚だった。二年になって三年生が地区大会の二回戦で敗退すると、俺とイチロウはすぐにレギュラーに選ばれた。そこで俺たち二人はフォワードのツートップとして、意気を合わせて得点を稼ぎまくった。三年生で出た県大会の決勝では、同点で終えた後半戦の後のPK戦でゴールを決められて敗れてしまったものの、彼とは高校三年間ずっと気の合ったパートナーだった。
 その彼が、暗い顔をして「相談があるんだけど」と俺に言ってきた。いつもなら気楽に話してくれるのに。きっとヘビーな悩みに違いない。俺で役に立てばいいのだが。
 彼は当初、俺の部屋が綺麗に整っているとか、大学の授業がどうとか、部活ではなくサッカー同好会に入ろうとしているとか、そういう話をしていた。
 俺は背の低い冷蔵庫から発泡酒の缶を二本取り出し一本をイチロウに渡し、もう一本のプルタブを押し上げて缶から窒素を抜き、自分のベッドに腰掛けた。
 彼も受け取った発泡酒の缶を開けてグビグビと音を立てて半分ほど飲んで、そして口を開いた。
「俺さ、お前のこと、好きだわ」

(続く)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み