第5話
文字数 1,403文字
翌朝。
本来ならふらふらと外を出歩いて、金になりそうな事でも探すところだが、今日はそれどころじゃない。
まず寝起きの瞬間、ナイフで刺されかけた。
久しぶりだったが、押し返せた。
見た目の割に力が強い。短い悲鳴を上げて後ろに倒れ込んだ少女。その手からさっさとナイフを奪った。
キッチンに放置していた果物ナイフは折り畳んで返しておく。人を刺殺したいなら、折り畳み式じゃなくて、一体型の方が安全だし、確実だから次からはそうするといいと助言をしておく。折り畳みができるナイフは抵抗された際にヒンジから折れる事もあるし、最悪刺した瞬間に刃が畳まれて指を切り飛ばす事もある。危険だ。
俺は立ち上がって、加害者を抱える。意外と抵抗はしなかった。
応接間に向かう。
「飯は、食ってないな」
テーブルの上の袋は、手付かずで放置だ。食欲はなくて当然か。
ため息を吐いて、衣類を置いてない方のソファに彼女を下ろし、その対面に座った。
「さて、っと」
元の育ちの差か、行儀良くちょこんと座って、こちらを睨んでいる。
改めて見て、ずいぶんと育ちの良さそうな娘だ。
適当にあしらわれ続けたせいで、髪も服も乱れているが、かなり上物だ。
純銀を溶かして伸ばしたような髪と、目鼻立ち整った綺麗な顔。歳は、十代半ばだな。
「俺は、探偵だ。名前はない」
睨んでいた彼女は、そこで少しだけ首を傾げた。どうやら聞く耳は持ってくれているようだ。
「たん、てい?」
「そうだ。捜し物だとか、浮気調査とか、そういう事が、本来の仕事だ」
残念だがこの街に来てからそんな依頼、一度も受けたことがないがな。
「昨日のも、仕事、なの……?」
少女の声。いきなりだな。
「ああ」
あれも仕事だ。
「人を、殺してまで、お金が欲しい?」
「ああ。欲しいね。ここじゃ、金が全てだ」
「ッ!」
キッと人の良さそうなどんくり目をつり上げて、射殺さんばかりに睨んでくる。
まぁ、どうであれ、彼女の言うとおりだ。人殺し。しかも小銭目当の小悪党だ。
「この……」
彼女が顔を真っ赤にさせて、罵詈雑言を吐こうとした瞬間、突然部屋の電話が鳴った。
「悪いな。ちょっと静かにしてくれ」
じりりと耳障りな音を立てる電話の受話器を取り、耳に当て、自己紹介を開口一番にやっておく。
『やあ、名探偵くん』
「あんたの声は、朝っぱらから聞きたくねぇな」
ナ・イだ。
陰鬱で、嫌味な響がある野郎の声。朝っぱらからは金を積まれない限りは聞きたくない
『私も朝から人を不愉快にはさせたくないのだがね。どうにも、この街には、私を不愉快にさせる者ばかりいる』
困ったものだと言いながらも、どこか楽しそうな声色だ。こいつ、何か企んでるな。
「それで、世間話しの相手が欲しいわけじゃないんだろう。要件はなんだよ」
『昨日、君に仕事を依頼したな』
「覚えていない」
『ホテルで乱射事件が起きたのだが、そこから死体がひとつ、なくなったらしい』
「残念だな。きっと今頃死体偏愛者のおもちゃになってるだろうよ」
『要人の娘だ。何としてでも、確認したい。今すぐ見つけ出してくれ。探し物は得意だろう?』
「わかった、探してやろう。代金は」
『代金は後払いと行こう。額は、君の命でどうだ。悪くないだろう?』
「ナ・イ。朝っぱらからあんたの古代歌劇よりつまらん冗談につきあいたくない」
『昼までだ。昼までに死体を見たい。できるな、名探偵くん。じゃあ頼むぞ』
そこで通話終了。
本来ならふらふらと外を出歩いて、金になりそうな事でも探すところだが、今日はそれどころじゃない。
まず寝起きの瞬間、ナイフで刺されかけた。
久しぶりだったが、押し返せた。
見た目の割に力が強い。短い悲鳴を上げて後ろに倒れ込んだ少女。その手からさっさとナイフを奪った。
キッチンに放置していた果物ナイフは折り畳んで返しておく。人を刺殺したいなら、折り畳み式じゃなくて、一体型の方が安全だし、確実だから次からはそうするといいと助言をしておく。折り畳みができるナイフは抵抗された際にヒンジから折れる事もあるし、最悪刺した瞬間に刃が畳まれて指を切り飛ばす事もある。危険だ。
俺は立ち上がって、加害者を抱える。意外と抵抗はしなかった。
応接間に向かう。
「飯は、食ってないな」
テーブルの上の袋は、手付かずで放置だ。食欲はなくて当然か。
ため息を吐いて、衣類を置いてない方のソファに彼女を下ろし、その対面に座った。
「さて、っと」
元の育ちの差か、行儀良くちょこんと座って、こちらを睨んでいる。
改めて見て、ずいぶんと育ちの良さそうな娘だ。
適当にあしらわれ続けたせいで、髪も服も乱れているが、かなり上物だ。
純銀を溶かして伸ばしたような髪と、目鼻立ち整った綺麗な顔。歳は、十代半ばだな。
「俺は、探偵だ。名前はない」
睨んでいた彼女は、そこで少しだけ首を傾げた。どうやら聞く耳は持ってくれているようだ。
「たん、てい?」
「そうだ。捜し物だとか、浮気調査とか、そういう事が、本来の仕事だ」
残念だがこの街に来てからそんな依頼、一度も受けたことがないがな。
「昨日のも、仕事、なの……?」
少女の声。いきなりだな。
「ああ」
あれも仕事だ。
「人を、殺してまで、お金が欲しい?」
「ああ。欲しいね。ここじゃ、金が全てだ」
「ッ!」
キッと人の良さそうなどんくり目をつり上げて、射殺さんばかりに睨んでくる。
まぁ、どうであれ、彼女の言うとおりだ。人殺し。しかも小銭目当の小悪党だ。
「この……」
彼女が顔を真っ赤にさせて、罵詈雑言を吐こうとした瞬間、突然部屋の電話が鳴った。
「悪いな。ちょっと静かにしてくれ」
じりりと耳障りな音を立てる電話の受話器を取り、耳に当て、自己紹介を開口一番にやっておく。
『やあ、名探偵くん』
「あんたの声は、朝っぱらから聞きたくねぇな」
ナ・イだ。
陰鬱で、嫌味な響がある野郎の声。朝っぱらからは金を積まれない限りは聞きたくない
『私も朝から人を不愉快にはさせたくないのだがね。どうにも、この街には、私を不愉快にさせる者ばかりいる』
困ったものだと言いながらも、どこか楽しそうな声色だ。こいつ、何か企んでるな。
「それで、世間話しの相手が欲しいわけじゃないんだろう。要件はなんだよ」
『昨日、君に仕事を依頼したな』
「覚えていない」
『ホテルで乱射事件が起きたのだが、そこから死体がひとつ、なくなったらしい』
「残念だな。きっと今頃死体偏愛者のおもちゃになってるだろうよ」
『要人の娘だ。何としてでも、確認したい。今すぐ見つけ出してくれ。探し物は得意だろう?』
「わかった、探してやろう。代金は」
『代金は後払いと行こう。額は、君の命でどうだ。悪くないだろう?』
「ナ・イ。朝っぱらからあんたの古代歌劇よりつまらん冗談につきあいたくない」
『昼までだ。昼までに死体を見たい。できるな、名探偵くん。じゃあ頼むぞ』
そこで通話終了。